謝罪の、誠意

「……つい、由里がずっと車の中で『源五郎丸 小十郎……あのふてぶてしさをいつか焦りに変えてさしあげますわ』と繰り返していたもので……」


「……おう」


 ところ変わって我が家のリビング。俺の名前を間違えたことの経緯説明から、香織と朝斗、そして俺の会談は始まった。


「……で、なんでまたここに来たんだ? 朝斗」


 もう朝斗を呼び捨てにすることになんの罪悪感も感じないわ。今後は呼び捨てにさせてもらおう。


「…………」

「……だんまりかよ。まあいい。それよりもまず、香織に謝らなければならないんじゃなかったか?」


 とりあえず本題からだ。香織に謝罪してもらわないと、俺の気も済まない。


「……あっ……そ、そうでした。香織……今さら、今さらだけど、本当に、本当に、ごめんなさい」

「………………」


 深々と頭を下げる朝斗に、香織は無言を決め込んでいる。俺が口出しをする理由もないので、傍観させていただくとするか。


「許してもらえなくても、謝らなきゃって、思って……」

「……なんで……なんで、そんなことを今さら謝りにきたの? あーちゃんは」


 ……しゃべったかと思ったら……おおう、怒ってるわ。こんな香織、初めて見たな。怒るのは当然といえば当然だが……


「……遅すぎるよね。ごめんなさい……」

「そうわかってるのに、なんで今さら、って聞いてるんだよ! だいいち、違うでしょ、謝るところが!」

「…………」


 朝斗もこんな口調で糾弾されるとは思ってなかったんだろう。たじたじだ。

 ……俺も美久にはっきりとした答えを出さないと、こんなふうに糾弾されちゃうんだろうか。


「……わたしが、わたしが、どんな気持ちで、今日まで過ごしてきたか……兄さんがいなかったら、わたしはきっと笑うことを忘れたままだった……」

「……ごめんなさい、香織……」

「兄さんのおかげで、幸せなわたしがここにいることができるのに……その兄さんの名前を間違うなんて……あーちゃん、許せないよ! ちゃんと兄さんに土下座して謝って!」


 ……え、許せないとこ、そこなの?


「!! ごめんなさい……真一さん!!」


 いや、朝斗。お前も俺に土下座なんかしなくても良いから。


 ……なんだろう。深刻なシーンのはずなのに、コメディーにしか見えなくなってきた。


―・―・―・―・―・―・―


 ……………………


「……あーちゃんも、いろいろあったんだもんね。わかったよ……もう、許すよ」

「!!! ……ごめんなさい、そして、許してくれて……ありがとう……うぐっ……」


 俺が朝斗を許すと、香織は一転して態度が温和になった。朝斗は男泣きしている……いや、男のくせにそんな号泣するなよ。


 ………………


 感動の和解シーンがどうでもよくなってきた俺は、つい意識をそらしてしまう。すると、朝斗が持ってきた荷物がやたら大きいことに違和感を感じた。


「……朝斗、おまえ、なんだその荷物は」


 俺の言葉を聞いた朝斗は、目を腕で拭ってから、あらためて俺と香織に向かって頭を下げてこうお願いしてきた。


「……実は僕、もうあの家には戻りたくなくて……家出してきました。謝罪しておいて、こんなお願いするのも気が引けるのですが……僕をしばらく、ここに泊めていただけませんか?」

「はぁ?!」


 思わず呆れたわ。厚かましいにもほどがあるぞ、朝斗よ。

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