親子の、遭遇

 街のど真ん中にあるお城。……ここ徒歩でしか入れないよな。


「ちょ、おま、いったい何を言い出すかと思えば」

「……だめですか?」


 潤んだ瞳でおねだりする香織が凶悪である。……おっと、意識が飛びかけた。


「あそこがどういう場所か、知らないわけじゃないだろう?」

「……もちろんです。ですが、後学のために一度休憩したかったんです。ジャグジー風呂もありますし」


 ……そうなんだ。あんなところに行ったことないから、ジャグジー風呂が設置されてるとか知らなかった。なぜ香織が知っているんだろうか。


「それでも香織と入るわけにいかない。そう見られちゃうからな」

「わたしは……かまいません。もし本当に、し、しちゃっても……」


 言葉だけで赤面からの気絶コンボを発動するというのに、実際、事に至ったら昇天するだろうな。性的じゃない意味で。


「それはもっと無理だ。だいいち、金がないぞ」

「わたし、先月と今月のお小遣いを持ってますから、大丈夫です」


 俺よりお金持ちだな。たかが二時間休憩に五千円も使えるとは。……いやいやそういう問題じゃない。

 心の中でのツッコミを終了し、香織がひとり入り口に向かって歩き出すのを、俺は手を引いて引きとめた。


「やめろ。早く家に帰ろう」

「濡れた服を乾かすだけです。お願いですから、兄さんも一緒に……」


 手を引いて引きとめたはずが、逆に香織に腕を掴まれて引っ張られた。この小さな体にこんな力があるとは思いもしなかった。


「ちょ、引っ張るな。濡れた服を着替えるために家に帰った方が早いぞ」

「デートの約束したじゃないですか。行きたい場所はここです」

「こんなところに来ることを、承諾する訳ないだろ!」


 門にかかっている、すだれのようなものを越えていく香織と、必死に引き合いをしていたその時。


「……!」

「あ」


 不意に、腕を組んだまま、お城の出口から出てくる、一組の男女に遭遇した。


「……真一……? 香織?!」

「…………うそ…………」


 一瞬で、周りの気温が絶対零度を記録した。体感的な意味で。


 目の前には、秀人父さんと、腕を組んでいた貴子義母さんが、引きつった顔のまま凍りついていたのだ。

 お城前で、奇しくも遭遇する親子二組。……まだ辺りも暗くなってないうちから、何でこんなところで遭遇しなきゃならないんだ。生々しすぎてごまかすことも不可能だ。


 父さんも義母さんも、家にいないと思ったら…………はぁ。

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