家族は、残酷

「おまえたち、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」


 晩ご飯のとき、父さんが俺と香織に向けて、そんなセリフを投げかけてきた。


「……おととい、あたりからかな?」

「…………はぃ」


 なぜかはわからないが、テーブルの座席が変わっている。……香織が俺の隣に座っているのだ。

 しかもパーソナルスペースが狭い。椅子がくっついてるな。


「……香織は、お兄ちゃんがほしかったのよね。ずっと前から」


 義母さんが、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、香織を煽る。


「お、お母さん……それは違うよ。真一兄さんだから、いいの」

「あらあら。香織は真一くんにベタ惚れね。あついあつい」

「……も、もぅ……お母さんったら……」


 ニヤニヤが止まらない義母さんと、下を向いて恥ずかしそうに縮こまる香織。それを見た父さんがいきなり笑い出した。


「はーっはっはっ。……真一、おまえ顔が優しくなったな。香織のおかげ、か?」

「……ん、そうかもしれない」

「あ、あぅ……」


 ますます小さくなる香織を、俺は穏やかな気持ちで眺めていた。こんな食卓なら……いつまでもいられるな。


―・―・―・―・―・―・―


 晩ご飯も終わり、くつろぎタイム。

 ……なぜか、香織が空のペットボトルを洗っていた。しかも2Lのでかいやつを、三個も。


「……香織、なにやってるんだ」

「あ、あ、兄さん……今日こそは、お湯を……」

「……?」


 よくわからんな。昨日より、ペットボトルの本数が増えてるのもなぜだろうか。


「あ、それより、兄さん。今日も一番風呂を、ど、どうぞ」

「……いいのか? 俺が先に入って」

「も、もちろんです。というか、先に入ってもらわないと困ります……」

「…………?」


 仲良くなったからって、香織のすべてがわかるわけではないらしい。……まあ、少しずつわかっていけばいいか。


「わかった。じゃ、今日もお先に失礼させてもらうよ」

「は、はぃ。ごゆっくり、どうぞ……」


〜〜〜 兄の入浴シーン略 〜〜〜


「ふー、いい湯だった。香織、上がったぞー」


 俺の声を聞いた瞬間に、香織が空のペットボトルを三本抱えたまま、パタパタと駆け足で寄ってきた。


「……じゃ、じゃあ、今日こそ、わたしが兄さんのあとにお風呂……」


 そう言った香織が浴室に入ろうとした時、義母さんからストップがかかった。


「あら、香織。ダメよ、あなたは熱を出して今日は休んだんだから、念のためお風呂はやめときなさい」

「…………えっ」


 カランカランカラン。

 香織が抱えていた空のペットボトルが三本、床に落ちて軽快な音を奏でる。……香織の瞳孔が開いてるぞ。大丈夫なのか? まだ体調が悪そうだな。


「……そうだな。香織、まだ体調悪そうに見えるから、やめとけ」

「えっ、えっ、えっ、…………ええっ…………」

「香織、無理はいかんぞ。年頃だから気になるかもしれんが、今日はやめとけ。じゃ、次は父さんが風呂をいただくとしよう」


 横から出てきた父さんが、昨日と同じように俺のあとに浴室へ消えていった。


「…………そ、そんなぁ……ぐすっ、ひっく」


 香織が泣いている。……そんなに風呂に入りたかったのか。思春期だもんな、清潔にしたいよな。わかるんだが……

 どうやって慰めればいいの、これ。


「……い、いいもん。明日も明後日もその次の日も、まだまだチャンスはあるもん……ぐすっ、兄さんの残り湯……欲しぃ」

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