レベル8同棲する勇者

・・・なんだろうこのフワフワしたのは。

こんな安らかな心地はこの異世界では

味わえなかったから、気づくのが遅れたけど

ベッドだ。・・・おそらくだけど。

そんな所で寝かされていることは、どこかの

施設で・・・もし教会の関係者だったら。


(ここが軍の所だったら今度こそ

逃走されなように隷従を強化し、

僕は今度こそ終わるだろうなぁ。

希望的なことを考えたいけど、そんな

都合のいいことが起きるても・・・いや、

あの現場で救出活動するなら

軍か勇者しかいないだろう。)


僕の希望の欠片の小さな誰かを救うヒーロー

の勇者像を貫こうとして駆け付けた結果が

捕らえられる可能性だ。

解放され今度こそ誰かを救うだと決意した。

本当の勇者に僕が抱く理想を実行した

その結果が絶望の再開となるのか。


(だけど、不思議に後悔はしていない。

この後の扱いは飛躍的に悪くなるけど

僕が選んだことなんだ。

与えられた任務とか強制とかじゃなく。)


後悔はある。だけど被害に遇った人を

助けたこの一点だけは、後悔はない!

それに、自分で決断して動くなんて

もう長い間にしていなかった。

この状況下に僕は諦観していたが

目を開かなければ何も分からないままだ。

僕は勇気とはいえない

無理に起こした蛮勇ばんゆうを奮起し

ゆっくりと瞼を開く。


「・・・ここは?」


築何年になるであろう天井と

簡易そうな家具だった。

とても軍が駐留にするにしては

生活感があり落ち着くそして場所。


「あっ、目覚めたんですね。」


仰向けになっていた僕の視界の左から

明るい笑みで覗いてくる、長い赤髪の少女。

肌は雪のようで、幻想的であった。


「えーと・・・ここは駐留軍なのですか?」

「ちゅうりゅうぐぅん?」


首を傾げ鸚鵡返おうむがえしする。

もしかして意味が知らないのだろうか。


「えーと、任務に赴く軍隊が

一時的に滞在する所です。」


しまった!言ってから悔いの念で

いきなり説明してしまった。と心中で叫ぶ。

知らないと判断して意味を親切心で

説明するのはその人の知識が低いとか

そう思われたかもしれない!

どう謝ろうか悩んでいると以外な言葉が。


「へぇー、知らなかったです。

詳しいのですね。」


罵声か憎悪など覚悟した僕だったが

まさかの称賛に戸惑ってしまう。


「・・・えーと、ありがとう?」

「いえいえ、どういたしまして。」


さらに予想外のお礼をする優しそうな笑顔。

・・・どうしよう、普通の美少女に

会話の経験値がないから

どう話せばいいのか・・・ああぁー

もう分からなくなってきた。

僅かに間ができ、赤髪さん

は崩さない笑顔で言う。


「着替えは、ここに置きますね。

わたしは朝食の準備にしますので

それじゃあ。」


年季があるテーブルに着替えを置くと

準備に歩を進めるときびすを返し

ドアを閉める前に頭を下げられたので、

僕も急いで会釈する。

そしてドアを閉めると僕はあの

美少女の対応に驚いた。

・・・ここまで親切にされたのは

異世界召喚されて初めてだった。


「それと、ここが本当に

どこなのか、わからない。」


軍なら巡回とか警護の姿が窓を見れば

見つかるなんて考えたんだが――

それが、開いた腰窓こしまどには

兵とか一人もいなく

レンガの家が林立と見える。

そして、彼女が去ってからここには

僕しかいなく外は静で空気がおいしい。

逆に言うと朝なのか昼だというのに

喧騒ではないのが疑問に思う。

そこまで推測できるのだけど。


「ここがあの人の家とか、

一瞬だけ、頭をよぎったけど

男の僕が入るのだから

ちがうから・・・うーん、

とりあえず着替えよう。」


テーブルに置かれた着替えを

袖を通し、ドアをゆっくり開くと

中には美少女が鼻歌をしながら

料理を作るのを見ると

この人が自分の家のようにしている

ように見える。


「テーブルに座って下さい。

もう少しで出来ますので。」


振り返りそう言われたので(これも笑顔)

テーブルに座る。

家具や部屋からしてつましい。

倹しいと言ってもそれが

汚いわけではなく

家具の間隔があってかなりバランスがいい。

それに少し低い食器棚などで

上のスペースがあるだけで

広く見せるテクニック。

知識としては知っていたけど

異世界でも家事は、進んでいるのだろうか?


「できました~。」


ふわふわした声で料理を入れた

器を置きその中身は

えんどう豆らしき物のスープ。

そして、千切ったレタスのみ。


「た、食べていいのか!?」

「はい。

男の人はかなり食べるから

少ないかもしれないけど。」

「いや、そんなことないよ。」


前の僕ならこの料理に不服に思っていた、

けどこの異世界の

教会の勇者の食事は腐った食べ物を

食べさせられたので

今の僕にはこの料理が豪華に見える。

そしてえんどう豆らしきスープを

スプーンで掬って飲む。

口の中には優しい味が広がり

歯応えのあるえんどう豆(やはり違った)

のまろやかな味でつまりこの味は――


「お、美味しい!?」

「うん。」


向かい席に座り僕が食べるのを

両手を頬を乗せ嬉しそうに見ていた。

懐かしい。

この温もりは・・・僕が日本にいた

ときにいつも感じた感情、

この愛情を感じる料理と

僕が美味しそうにしているのを

純粋に嬉しそうしている人に・・・

失ったなにかが戻った気がした。


「ど、どうして泣いているの!?

痛い、苦しい?」

「・・・いや・・・・嬉しいんだ。」


彼女の言葉に僕が泣いていたんだって

気づいた。

恥ずかしかった。

でも、それ以上に

その明るい優しさが救われた。

そして、食べ終わると

涙も流れるのを止まったようで

助かった。

そして、優しい人は紅茶を入れ

自分の分と僕の分を置く。


「その・・・食事はありがとう

ございます。

でも、どうして僕はここに?」


ようやく最初の疑問を訊くことが

できた。

ここまで運ばれたのは家族の誰かだろうと

思う。


「覚えてなさていないと思いますけど

旅行馬車で凶暴な魔物に

わたしを救って下さた後に

倒れてしまって

ここまで運びました。」


なるほど僕をここまで・・・えっ!?


「こ、ここまで言うのは

一人で、ですか?」

「はい。」

「・・・・・そ、そうですか。」


まさか華奢な美少女に

運ばれたのは

さすがに想像もしなかった。

・・・あっ、サバイバルウルフを

倒したときに確かにこの人はいた。

今は、旅行の衣装とかじゃなく

エプロンドレスなので

気づかなかった。


「今さら言うのは、遅れましたが

僕は覚えていますよ。

あの現場に貴女がいたことに。」

「覚えてくれたんですね。

・・・・・えーと、わたし達って

まだ名前を言っていませんでしたね。

わたしは、ティファニー。

貴方の名前は?」


名前。

過去を振り返ると

この異世界の住人に初めて言われた。

ティファニーと話すと楽しく

涙腺が危うくなることが多々ある。

僕の名前か、名乗るのはどれぐらいに

なるかな。


「僕は・・伊達繁実だてしげざね。」


両親が伊達政宗の大ファンだったことから

伊達の三傑さんけつの一人から

取った、

その戦国武将が伊達成実だてしげざね

で僕も気に入っている。


「ダテシゲザネ・・・

あまり聞いたことない名前で

スゴそうです!」


ティファニーは、日本の戦国武将を

知らないはずだけど

なんだか気に入ってもらったようで

よかった。

この名前で誰の偉人とかよく言われるから

なぁ。

ちなみに成実の漢字の成を繁に

変えただけなのが僕の名前になる。

そして僕は元勇者は、ティファニーの

家に同棲することになった。




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