アフターストーリーズ

After1 ただいまー!

みなさまお久しぶりでっす!

アフターストーリーが出来たのでお届けします。


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 はてさて、唯花ゆいかが引きこもりを卒業してから実に半年近くが経った。


 おかげさまで唯花は今も毎日元気に登校していて、放課後はこれまたいつものように俺と一緒に過ごしている。


 ただ最近は如月きさらぎ家よりもむしろウチの三上みかみ家で過ごすことの方が多い。


 理由は弟の伊織いおりである。


 如月家で俺と唯花が部屋にいこうとすると、なぜか伊織がハイライトの消えた目で俺の腕をガシッと掴み、『大丈夫だよね? 奏太そうた兄ちゃん、わかってるよね? 隣の部屋に僕がいるんだからね……!?』と異様な必死さで何かを訴えてくるのだ。


 外で会う時は普通だし、如月家のリビングで三人一緒にテレビを見ている時もいつも通りなのだが、なぜか俺と唯花が部屋で二人きりになりそうなタイミングになると、伊織は途端に焦り始める。


 さらには色々理由をつけて五分に一回、俺たちの様子を覗きにきたり、なぜかその隙間を縫うようなタイミングであおいからも電話やメッセージが飛んでくる。


 しばらく唯花と『これはなんなんだろう?』と首をかしげていたのだが、ある時、ふと俺たちは気づいた。


 そっか!

 伊織も葵のことを家に呼びたいんだな!


 兄と姉が隣の部屋にいては伊織も彼女を呼びづらいのだろう。

 こっちはまったく気にしないが、中学生は繊細な年頃だからな。


 やはりここは俺たちが譲ってやるべきところに違いない。


 そんな年長者の気遣いをさりげなく発揮しまくり、結果、放課後は唯花を連れて俺の部屋で過ごすことが多くなった。


 間取りは唯花の部屋とあまり変わり映えはしない。

 窓側にベッドがあり、ちゃぶ台代わりのテーブルがあって、服はクローゼットに収納し、漫画や雑誌は本棚に収まっている。


 以前は壁に映画のポスターを貼ってたりしたんだが、近頃は徐々に唯花のアニメグッズに浸食されて、ハリウッドのポスターの上にでかでかとムシ柱さんのタペストリーが貼られている。


 フィギュアやブルーレイも唯花の部屋に入りきらないものがだんだんこっちに運ばれてきていて、そのうち俺の部屋は唯花のアニメグッズ用倉庫にされてしまうんじゃなかろうか……とひっそり戦々恐々な毎日だ。


「……奏……ねえ……太……てる?」


 まあ、これも唯花が無事に部屋から出てきたからこそなので、嬉しい悲鳴といえば嬉しい悲鳴なんだよな、うん。


「……奏太そうたってば……聞いてる? 奏太ってばー!」

「うお、なんだどうした?」


 気づいたら唯花がテーブルに身を乗り出してふくれっ面をしていた。


 放課後なので制服姿。ブレザーはハンガーにかけてあるので、リボンにワイシャツというラフな格好だ。そして相変わらずの美少女である。


「どうした、じゃないよー。可愛い唯花ちゃんが目の前にいるのに、ムシ柱さんを熱烈に見つめているとは一体どういう了見かね?」


「別に熱烈に見つめてなんてないぞ。この先、お前のグッズがどこまで増えていくんだろう……って途方に暮れてただけだ」


「ふっ、何を考えているのかと思えば、そんなことかね。聞くがいいのです。あたしはまだ実力の半分も出していない!」

「なっ!? これで半分ってグッズが倍に増えるってことか!?」


「否! 倍の速度で増えていくってことなり!」

「嘘だろ!? お前のグッズで沈むぞ、俺の部屋!?」


「ふははは、諦めるのです! 奏太の物はあたしの物、あたしの物は奏太の物ーっ!」


 なんというジャイアニズム。

 否、ユイカニャズム。


「くっ、俺の部屋は甘んじて浸食されるしかないのか……っ」


 慈悲なき所業に俺は悲嘆に暮れる。


 唯花はふんぞり返って高笑い。

 制服のリボンの下で、Fカップの胸が揺れている。


 うむ。


 F……とは便宜上言ったもの、実はその領域すらそろそろ越え始めているんじゃなかろうか……と俺は最近思っている。


 くっ、触りたい。

 よし、触ろう。


 無造作に手を伸ばし、俺は唯花のリボンにツンと触れる。


「ほえ?」


 その指をおもむろに下げていき……。




 ――ふにゅ。




「ひゃんっ!?」


 無意識の指先が触れた途端、唯花は声を上げて飛び上がった。

 守るように自分の胸を押さえると、こっちにジト目を向けてくる。


「そ~た~?」

「はっ!?」


 我に返り、俺は自分の手を見る。


「すまん! 指が勝手に……っ」

「そんなわけないでしょーが。奏太の手はヒダリーか何かなの?」


「ああ、実は寄生生物に取り憑かれてしまってな。俺の左手はヒダリ―なんだ。みんなの未来を守らねばなんだ」

「いやあたしのおっぱい触ったの、右手だし」


「なん、だと……!?」

「誤魔化す気すらないと見た。まったくもう……」


 右手で胸を押さえたまま、唯花は左手で頬杖をつく。

 長い黒髪がさらりと揺れて。


「奏太ってば最近ほんとーに男の子なんだから。しょうがないなぁ」

「……むう」


 好意的な苦笑で言われ、ちょっとグッときてしまった。


 唯花は最近、妙に余裕が出てきて、お姉ちゃんモードに磨きが掛かっている。

 

 いかんいかん。つい出来心で胸を触ってしまったが、このままでは主導権を持っていかれてしまうぞ。


 と、思っていたら、テーブルをまわり込んで唯花が隣にやってきた。


 こっちこっち、と俺の腕を掴んで屈ませ、耳打ちしてくる。


「ダメだぞ、男の子」


 そっと内緒話をするように。


「そーゆーことはちゃんと宿題やってから、ってお約束でしょ?」

「……っ」


 耳がこそばゆい。セリフも際どい。

 頬が赤くなってしまいそうになって、俺は思わず反対側を向く。


 すると唯花も意識してしまったのか、誤魔化すように服を引っ張ってくる。


「やだ、照れないでよー」

「いやいや照れるだだろ、これは……」


「奏太が悪いんでしょー」

「うん、まあ……だな。これは俺が悪かった」


 素直に認めて、鼻の頭をかく。


「もう半年も経つのにさ、ついついイタズラしたくなっちゃうんだよ……俺の彼女はすげえ可愛いから」

「ふ、ふーん……」


 今度は唯花が反対側を向いたのが気配でわかった。

 でも服は掴んだままだ。


「……可愛いんだ、奏太の彼女って」

「ああ、可愛い」


 大きく頷く。


「世界一可愛いし、超美人だし、すげえ愛嬌もあって、こんな彼女が隣にいてくれて、俺は毎日めちゃくちゃ幸せだ」

「ほ、ほー……?」


 満更でもない声。

 むしろ超ウキウキな声。


「た、たとえばどんなところが好き?」

「たとえばそうだな……」


 またイタズラ心がわいてきた。


「お姉さんぶってても、甘えたくなってコロッと負けちゃうところとか超可愛いな」


 ネコにするみたいに唯花の喉元を指先でくすぐる。


「ほれほれ」

「わわっ。ちょっとー、唯花ちゃんはネコじゃないのです」

「そうかー?」


 一緒に髪も撫でてやる。

 優しく指で梳くように。


「ほれほれ」

「あうぅ……」


 唯花が身じろぎし始めた。

 あと一押しだ。

 

 俺は耳元に顔を寄せ、息が掛からない程度に囁く。


「唯花……好きだ」

「――っ」


 とろん、と表情が崩れた。

 

「あたしも奏太が好きぃ……」


 にゃー……と鳴いて腕にしなだれ掛かってきた。よし、勝った。

 お姉ちゃんモードに磨きが掛かっても、相変わらず防御は紙な唯花だった。


 引きこもりを卒業して半年が経ち、同時に俺たちが恋人同士になって半年。

 毎日こんな感じで過ごしている。



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【お知らせ】


今回のアフターは全4話構成で毎日1話ずつ、18時過ぎ頃に投稿する予定です。

明日も投稿しますのでどうぞよしなにー。

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