第72話 ご対面! 奏太VS葵
栗色の髪はフランス人形のようにふわふわしていて、黒髪ストレートの
「へえ、2人は小学校から一緒なのか。じゃあ、結構長い付き合いなんじゃないか。そんな相手がいるなんて初耳だぞ、伊織」
「僕だって
「そりゃそうだろうけど……ちょっとばっかり淋しいぞ」
「どうぞ、淋しがって下さい。いつまでも後ろを歩いてる弟分じゃないからね?」
「ったく、言ってくれるぜ」
冗談めかして胸を張る伊織と、同じく冗談めかしつつ、内心、わりと本気で淋しがってる俺。
でもこうして普通に話してくれる辺り、反抗期はもう終わりらしい。なんせ伊織はもう彼女持ちだからな。俺、とうとう置いてかれちゃったもんな。まじへこむ。
迸るほど彼女がほしい。この後、如月家に帰って唯花に会ったらまずいかもしれん。
そして話を聞いてる限り、2人はまだ健全な関係のようだ。つまりすべては俺と唯花の取り越し苦労。やれやれだ。本当にやれやれだ……。
で、俺たちは今、葵ちゃんを送って、夜道を歩いている。
伊織が真ん中にいて、右側に俺、左側に葵ちゃんだ。
しかしさっきから話しているのは俺と伊織ばかり。正直、葵ちゃんとも話してみたいんだが……。
「……えーと、俺の顔に何かついてるかな?」
「……………………い、いえ何も」
葵ちゃんは伊織の陰に隠れ、怯えた様子で俺を見ている。だが視線は絶対に外さない。なんか無言のプレッシャーがすごい。
身に覚えは……だいぶある。思い返せば、誤解を受けそうなことを壁越しに色々言いまくってしまった。どうすればここから心を開いてもらえるだろう。悩ましく思っていると、葵ちゃんがぼそっとつぶやいた。
「…………おもらし」
ビクッと背筋が伸びた。
あ、あれ、やっぱり聞こえてたかー……っ。いやまあ、聞こえてるだろうなとは思ったけども。
葵ちゃんは大変低いトーンでまたつぶやく。
「……わ、わたし、奏太兄ちゃんさんって、格好いい兄貴分みたいな人だと思ってました。それがまさかこんな変態さんだったなんて……っ。ショックです」
「いや待ってくれ、葵ちゃん! 変態ではない、変態ではないぞ、俺は!」
「あ、葵ちゃんだなんて呼ばないで下さいっ。汚らわしい!」
「汚らわしい!?」
中学生の女の子から生理的嫌悪の表明!
俺に10万のダメージ!
「まあまあ。ほら、葵ちゃんは葵ちゃんだし」
「……い、伊織くんが言うので許します」
「…………ありがたき幸せ。末代まで感謝します」
滝のように涙を流しながら感謝する。
すげえ、伊織の仲裁で一瞬にしてお許しが出た。
これが彼氏彼女というものか。
雰囲気から察するに、葵ちゃんはもともと大人しい性格なのだと思う。
それを覆すほど、俺は嫌われてしまっているらしい。これは……天罰か? 俺は今、天から罰を受けているのか?
「だ、だいたいですね」
「まだ続くのか……っ」
「奏太兄ちゃんさんは伊織くんに迷惑を掛け過ぎです。毎日毎日、壁の向こうからお姉さんとのイチャイチャを聞かせて、真っ当な人のやることじゃありません!」
「うっ!?」
「そ、それに本当にお姉さんを引きこもりから卒業させる気があるんですか!? 伊織くんから聞いてる限り、毎日ひたすらイチャイチャしてるばっかりで進展してるように思えません! やる気が感じられないです!」
「うぅっ!?」
「お、お姉さんとの関係にしても、付き合わないとか言ってるくせに倫理的にアウトなことばかりし過ぎです! もっと貞操観念を持って下さい!」
「うぅぅっ!?」
中学生の女の子から正論の剛速球!
俺に1000万のダメージ! HPはもうゼロだ!
「葵ちゃん、僕のためにありがとう。でも奏太兄ちゃんはお姉ちゃんのために本気で頑張ってくれてるんだ」
「……伊織くんが言うので謝ります。部外者が勝手なことを言ってすみませんでした」
「…………滅相もございません。率直なご意見ありがとうございました」
吐血しそうな口を押さえて平身低頭する。
すげえ、なんていう破壊力だ。これが弟分の彼女……。
お家芸で如月家の新たな家族が爆誕することはなかったが、代わりに――俺にとっての天敵がここに爆誕してしまったようだ。
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