第38話 幼馴染は幼妻③
さて。
耳かきor耳そうじ。
呼び方によってニュアンスも微妙に変わってくるのが非常に奥ゆかしいところである。
口語で話す時、『なんとなく口触りがいいのはこっち』というパターンもあったりするからこだわり始めると難しい。
「よって今回はその時々によって『口触りのいい方』の言い方をするから、どうかご承知おき頂きたい。耳かきと耳そうじの使い分けはするが、だいだい同じ意味だと思ってもらって構わない」
「あー、うん、まあどうでもいいけど。
俺の真摯な注釈に対し、
もちろん三つ編みは継続中。ワイシャツとカーディガンにロングスカートの幼妻姿だ。
「では、膝を借りるぞ。失礼仕る」
「……むむ、当たり前のように平然とくるわね。ちょっと恥ずかしいけど、耳そうじしてあげるって言っちゃったから……ど、どうぞ」
床に寝ころんでいた俺は、芋虫のように移動し、女の子座りした唯花の膝に頭を乗せる。
太ももの方ではなく、膝ギリギリ辺りだ。足の柔らかさは堪能しづらいが、これなら胸が邪魔して耳が見えづらいという事態にも陥らない。
「……ちょっと意外。奏太、絶対あたしの胸でひと悶着すると思ったのに、普通に膝に乗ってきた」
「我が幼馴染よ」
「わ、なんか新しい言い回し」
「一つ教えてやろう」
俺はカッと両眼を見開く。
「耳かき動画にエロなど必要ない――ッ!」
マッサージ動画同様、癒しを求める動画にエロなど御法度。水着などいらぬ。ムーディーな音楽などいらぬ。むしろ眠れなくなるからな!
「えーと……あたし、別に動画じゃないけれども」
「ニュアンスを汲み取って頂ければ結構!」
「あ、これあれだね? マッサージの時と同じ、奏太の謎のこだわりの話だね?」
「左様である。あと耳かき動画にも過剰な前置きは不要。とっとと始めるのが良い動画」
「はいはい。じゃあ、やるよー」
よろしゅう、と厳格な顔で言い、俺はくるっと横を向く。
唯花はすでに耳かきを手にしている。
部屋に爪切りやら耳かきやらが常備してあるのは引きこもりのいいところだな。
綿毛のついた耳かきを必殺仕事人のようにスチャッと構える、唯花さん。
「あなたの恨み晴らします、キラリーン☆ あたし、人の耳かきって初めてだから楽しくなってきたかも。よし、やるよ!」
「あ、わりぃ、ちょっとストップ。全力で一端落ち着こう。キラリーンでむちゃくちゃ不安になった」
横向き体勢から瞬時に正面向きに戻る。
見れば、ドジッ娘属性っぽい仕事人が得意げに獲物を構えていた。不安過ぎるわ。
「頼むからいきなり『ザクッ! ブシュー!』みたいなオチは無しな? 絶対無しな?」
「え、なにそれフリ?」
「フリじゃねえよ!? 自分の鼓膜を危険に晒すようなドМなフリがあるか!」
「大丈夫、大丈夫。あたし、こう見えて手先は器用だから」
「そんな情報は初耳だぞ? 幼馴染なのに初耳だぞ? お前、昔から不器用の極致だろ。嵌め合わせるだけのガンプラすら作れずに俺にやらせてたろうが」
「そんなの子供の頃の話でしょ? 今はクッキーだって作れるんだから、奏太の耳ぐらいラクショーで料理してやるってばよ」
「怖い! 耳に螺旋丸撃ち込まれそうな予感しかない!」
「もー、ごちゃごちゃうるさいなぁ。ほらほら、横向いて。――始めますよぉ、あ・な・た♪」
「ぬう!?」
不意打ちだったので、一瞬、心臓が高鳴ってしまった。
俺を見下ろし、唯花がネコのようににま~と笑う。
「胸キュンしちゃった?」
「…………」
「ねえねえ、しちゃった?」
「…………」
「ねえねえねえ?」
ニマニマしながら指で頬を突いてくる。
くっ、ウザくて可愛いくてウザくて可愛い!
「…………あー、あー、そうだよ、胸キュンしちゃったよ」
「ふっふー、そうですかそうですか。可愛い奥さんに胸キュンしちゃいましたかー」
奥様はご満悦である。
くそう、顔が熱い。
「もう螺旋丸でもなんでもいいからやってくれ。ほら」
視線から逃げるようにくるっと横を向く。
そして幼妻による耳かきが始まる。
耳かき動画愛好家の俺としたことが、結局、前置きが長くなってしまったことを諸兄には平に陳謝したい。
次回こそ、焦らしたりせず耳かき回だ!
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