第14話 放課後、今日も今日とて、幼馴染の写メを撮るってばよ!
どうも、背が平均より2,3センチ高くて、ややツリ目で、別に女装は似合ったりしない俺です。あとオカルトが苦手で、甘い物と
……うん、いざ自分で考えてみても、あんまり特徴ないな、俺。
などと、昨日のことを引きずっていたら、唯花が後ろから覆い被さってきた。
「ねえねえねえねえ、
「ねえが多いな。なんだ一体?」
俺はいつも通り、ガラステーブルで課題をやっている。
その背中に唯花はべったりとくっついた。ちょっと期待したが、上手く左手を差し込まれ、胸は当たっていない。
くっ、スキンシップしてくるくせにガードが固いな、おい。
「……今、えっちなこと考えてるでしょ?」
「分かってるならもう少しサービスしてくれてもいいんだぞ? 具体的にはその左手を――」
「お断る」
「まだ途中なのに……」
「そんなことより、あたし気づいちゃったの」
俺の顔の横からにょきっと右手が伸びて、テーブルの上を指差した。
「奏太ってスマホ持ってるじゃない?」
「まあ、現代人だからな」
唯花が指差しているのは、ノートの横にある俺のスマホだ。
「スマホって写真撮れるじゃない?」
「今時、どの機種で撮れるわな」
「じゃあ、そのスマホで文化祭の写真も撮ってたりして?」
「……そこに気づくとは、やはり天才か」
冷静な口調で言いつつ、俺は怒涛の勢いで頭を抱えた。
確かに通話アプリのグループでクラスの奴らが写真を上げてた気がする。やべえ、俺としたことが盲点だった。
「ね、見せて♪」
「ないです。写真とかないです。大昔に里を襲ってきたんで、俺の心の奥深くに封印しました」
「ああ、だから奏太って子供の頃から友達いなかったんだ。里のみんなから嫌われてたんだね……」
「いたわ! 少なくともお前よりはいたわ!」
「と、話してる隙にゲット!」
「させるか! 愚か者め!」
唯花の右手がスマホへ向かったので、すかさずその手首を掴んだ。
だがすぐさま半立ちになり、今度は左手を伸ばしてくる。
「今度こそゲットだってばよ!」
「馬鹿め! 俺の背後からではリーチが足りぬわ!」
「ここで影分身!」
「なにぃ!?」
唯花はいつの間にか左手にアーサー王のぬいぐるみを持っていた。その口にすっぽり入る形でスマホが奪われてしまう。
「最近大活躍だな、アーサー王!?」
「ゆるいフェイスが可愛いからね、仕方ないよね」
影分身たるアーサー王の口からスマホを手にし、唯花は勝ち誇った。
そして「さあて、奏太のメイドさん姿はどこかなぁ」と操作しようとする。しかし動かない。
「あれっ、ロック掛かってる!? なんで!?」
「掛けとくだろ、普通」
「ひどいわ! あたしに見られちゃマズイものでもあるって言うの!?」
「今まさにその状況だってばよ。自分の行いを鑑みろってばよ」
「ロックを外して! ――あの子を解き放て。あの子は人間だぞ!?」
「ジブリかい。ネタはちゃんと統一しろよ。あと女装した俺をあの子とか言うな。その封印が解けることはない。諦めるがいい、人間よ」
「やーだー! 見たい見たい見たい、奏太のメイドさん姿見たいのー! あたしのスマホに写真送ってー!」
「見せるだけじゃねえの!? 要求レベル上がってんじゃねえか!?」
「とにかく欲しーのーっ!」
手足を投げ出してバタバタ暴れる幼馴染。久々の駄々っ子だ。
ぬう、巫女さん衣装の時に真面目に頼んで失敗したから戦法を変えてきたな。
こうなるともう手に負えない。……はぁ、そろそろ年貢の納め時か。
「じゃあ、交換条件。唯花の写真を送ってくれたら、俺のも送る」
「あたしの? ないよ。写真嫌いだもん」
「しれっと当たり前みたいな顔でいうその胆力……見習いたい。やれやれまったく……」
立ち上がって、唯花の手からスマホを取り戻し、ぱぱっと操作。ロックを解除してカメラモードへ。
「はい、こっち見て、ポーズ取れー」
「へ!? い、今撮るつもり!?」
「しれっと当たり前みたいな顔で言わせてもらうが、そりゃ撮るさ。こういう時のためのカメラ機能だろ?」
「ちょ、ちょっと待って。クシ取って、クシ! あと服も着替えるから……っ」
「パジャマ以外の服なんてないだろ、この部屋」
「あるよ!? 奏太はあたしをなんだと思ってるの!?」
「え、引きこもりのクソニートだと思ってるけど……?」
「きょとんとした顔で言わないで!? 引きこもりの後にちゃんと『美少女』をつけてよ!? 写メ撮るならせめて美少女らしくさせてってば。奏太のスマホにずっと残るなら変な格好で映りたくないの!」
「残念だったな! 俺はそうやって慌ててる、可愛い唯花をこそ残したいのだ。ってわけで、はいチーズ」
「あーっ! ……ぴ、ぴーす?」
ピロリロリーン、とシャッター音が鳴った。
おお、素晴らしい写真が撮れた。
「いい出来だぞ」
「本当に? ちょっと見せて」
「ん、いやっ、お断る」
「なぜに?」
唯花が覗き込んできたので、思わず画面を隠す。途端、幼馴染はジト目になった。俺の邪念に感づいた顔で有無を言わさぬ声。
「見せなさい。拒否権はありません」
「……はい」
観念してスマホを差し出した。
写真の中の唯花は慌ててピースサインをしているものの、さすがの美少女ぶりで様になっている。ただ、さっき床でダダをこねていたせいで、パジャマのボタンが外れていた。胸元からブラのレースと谷間が少しだけ見えている。
「……何がいい出来よ。奏太のえっち」
「弁解の言葉もございません」
唯花はさっと自分の襟元を整え、ジト目でこっちを睨む。俺は流れるように土下座である。
「あたしのこんな写真持って帰って、一体何に使うつもりなんだか」
「ぜひ今夜のオカズにしたいと胸を高鳴らせておりました」
「正直か! ……まったくもう、奏太も健康的な男子なんだね」
いつもの俺みたいなやれやれ顔をし、スマホがガラステーブルに置かれた。
写真の削除は……たぶんされてない。
俺は恐る恐る顔を上げる。
「……いいのか?」
唯花はぷいっと顔を背けた。
耳を赤くし、囁き声のような小さな返事。
「…………程々にね」
よっしゃあ! と内心ガッツポーズ。
お姫様の気が変わらぬうちに、そそくさと保存しておく。
「あ、ちゃんと奏太の写真送ってよ。交換条件なんだからね?」
「送る送る、すぐ送る。俺の写真なんて好きにしてくれ」
と、送信ボタンを押したところで、ふと思った。
正直、テンション上がって頭が沸いていたと言っていい。
俺はスマホから顔を上げ、極めて自然に訊ねてしまった。
「唯花もオカズにするのか?」
「奏太」
「うん? ――ほげぇ!?」
笑顔で剛速球。
アーサー王が顔面に炸裂し、俺は仰け反りながら失神した。
うん、なんだ、その……さすがに今回は俺が悪かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます