第1章 一体ここはどこだ?
第1話 迷子なう
「こ、ここは……」
何処だ?
脳内がその一言で埋め尽くされた。
石造りの建物、石畳が敷かれた街路。武骨でどこかそっけない電信柱はどこにもなく、レトロなデザインの街灯が立ち並ぶばかり。
街を歩く人々の何割かは
そういう、ともすれば出来のいいコスプレみたいな異種族の方々、大学内でも
これがヴァーチャルリアリティで表現された
俺は確か、大学に向かう途中で、二限の講義に遅刻しそうで走っていて、大学への近道である路地の角を曲がって――路地を通り抜けたらこれだ。
決してどこかのテーマパークでVR体験をしてたりとか、すっ転んで脳内トリップしたとか、そんなわけではない。後者については、ない、はずだ。
人々が行き交う街路に背中を向け、傍らにある石壁にもたれかかり、俺はゆっくりと思考を巡らせた。
俺の名前は?
年齢は?20歳。
住所は?東京都新宿区西落合2丁目。
大学と、所属学部は?M大学、社会学部 地域社会学科。
よし、記憶は明瞭、意識も混濁なし。つまり俺はいたって正気だ、間違いない。
そして俺は心の底から絶望する。俺を取り巻く、このフィクションとしか思えない状況は、確実に
一縷の望みを胸に抱き、俺はジーンズの尻ポケットをまさぐる。硬い感触が返ってきたことに安堵しながら、スマホを取り出した。
最悪、ここが
というか、俺はSNSだってやってるんだから、そちらに助けを求める手も取れなくはない。T○itterとか、I○stagramとか。フォロワー数は……まぁ、あれだ、深くは聞くな。
スマホのロックボタンを押し込むと、何事もなく画面に光が点った。壁紙に設定している箱根温泉の湯棚の写真が映る。
そして右上、電池残量の表示の隣。
「圏外、かー……」
無情にも、電波表示は圏外。俺の希望は儚くも打ち砕かれた。
拝啓、父さん。母さん。俺はどうやら
いい歳こいて迷子になりました。
泣いていいですか。
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