第17話 夜間強襲戦①
集落の東に着くと、オーク達が家屋から何かを運び出している所だった。
槍のような物に、それに農具か…?
って、ああそうか、武器の類を用意しているのか。
…そういえば、先程の夜襲に現れた時、オーク達は武器らしい武器を装備していなかった。
武装くらいさせてやれば、俺達ももう少しは苦労しただろうに…
どうやらゴウは、そういった事には本当に無頓着なようだ。
そんな事を考えていると、少し離れた所でソワソワとしているライを発見する。
「ライ」
「あ、トーヤ…。良かった、無事だったみたいだね」
「ああ、とりあえずは、な。…で、どうしたんだ? そんな焦って?」
「それがさ…、実は見張りのトロールが見当たらなかったんだ…」
見張りのトロールが見当たらない…
それはつまり、まだ所在不明のトロールが存在するという事を意味する。
(うーむ…、予想が外れたか…)
まあ、当然その可能性はあったのだが、正直少し腑に落ちない。
ゴウは大雑把な性格のようだが、見張りをつけるくらいの警戒心はあると思ったが…
「そうか…。でも、そうなると少し厄介だな…」
ゴウを攻略する上で、イレギュラーな存在が残ってしまうのは非常に危険だ。
例え一人といえど、トロール単体の戦力は決して無視出来るものでは無い。
もし、ゴウと対峙している最中にそのトロールが現れれば、戦線は一気に瓦解し、絶望的な状況になってしまう可能性がある。
出来れば、そういった可能性は潰しておきたい所だ。
「あ、あの!」
どうしたものかと悩んでいると、一人のオークが目の前にやってきた。
「ん、どうしました?」
「いえ、少し気になることがありまして…」
「気になること?」
「はい。先程、長の家付近を偵察した際に確認したトロールは四人いましたが、全て男だったのです」
「…その言い方だと、女のトロールもいるって事かな?」
「はい。男のトロールと比較しても遜色ないほどの体格でしたが、間違いなく」
イオ以外にも、女のトロールがいたのか…
もしかして、イオのような絶世の美女だったりするのだろうか?
…いや、男と遜色が無い体格だと言っていたし、それは無いか。
「…それで、気になった事っていうのは?」
「それが、どうにもあの二頭のトロールが、その女トロールにかなり執着しているようだったので、もしやと思いまして…」
もしやって………、ああ! そういう事か!
「つまり、その女トロールは、ゴウと一緒にいるかもしれないって事か」
「はい…。その可能性があるかもと」
俺は実際にゴウを見たことがあるわけではないが、話を聞く限りでは粗野で野蛮なイメージがある。
絶対とは言えないが、女癖も悪そうだ。
「…恐れていたことが起こりましたか」
それまで黙って後方で待機していたイオが、俺の傍に歩み寄ってくる。
「ヒィッ!? トロール!?」
「おっと…、大丈夫、この人は協力者だよ。危害は加えないから安心してくれ」
「そ、そうなのですか…?」
オークの青年はまだ半信半疑といった様子だが、とりあえずは逃げ出さずに踏みとどまった。
「…イオ、その言い方だと心当たりがあるのか?」
「…ゴウは前々からその女性、ジュラに目を付けていました。そのことについては私達も認識していましたし、警戒していたのですが、どうやらこの状況を利用されたようですね…」
目を付けていた、とは聞くまでもなく
となると、そのジュラというトロールはゴウと共に長の家にいるという事か…
本当はゴウを孤立させたかったのだが、そうなると少し難しいかもしれない。
…まあ、あまり考えたくは無いが、ジュラというトロールが無事とも限らないが。
「そのジュラって人は、その、ゴウのやり方に納得していたのか?」
「…彼女は素晴らしい戦士です。実力も申し分なく、私も信頼している立派な方です。ただ、義に厚いと言えば聞こえは良いですが、どうにも頭が固い所があるのです…。彼女も、ゴウのやり方が間違っていると理解してはいるのでしょうが、掟を破るような真似は絶対にしません。故に、ゴウに命じられれば、その身を差し出す可能性は十分にあるでしょう…」
「………」
「私達は、ゴウの糞野郎が阿呆な事をしでかさないよう、警戒していました。ですが、今回の件でその警戒を怠った…。失態です」
目に見えて怒りをあらわにするイオ。
この有様では、今にも飛び出して行きそうである。
「えーっと、イオさん? 気持ちはわかるけど、くれぐれも早まらないで下さいよ?」
その様子に、ライが慌てて忠告をする。
「…わかっています」
想定外の事はあったが、作戦に変更はない。
もしジュラが戦線に加わった場合は、イオに何とかして貰うしかないだろう。
そうなるくらいなら、本当に戦闘不能にでもなっていて欲しい所だが…
って、俺は何を考えているんだ!
一瞬、思考が危ない方向に向かいそうだったが、俺はそれを振り払うように頭をブンブンと横に振る。
「ど、どうしたのですか?」
「…いや、何でもない。それより、あまり時間も無いし、簡単に作戦概要を説明するよ」
余計な事は考えない方が良い…
今はただ、作戦に集中しよう…
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