きみはアレルゲン

 声を大にして問いたい。

 俺とのセックスはおまえにとってアレルギーなのか、と。

 事の顛末はこうだ。


「ちょっと待って、今日は四本……」

「いい加減にしろ!」


 姫野が、酒を飲まないとやらせてくれない。

 正確に言うと、俺は飲んでなくてもいいらしいが、姫野のほうが飲んでないと駄目らしい。

 と言うのも、長いこといがみ合っていた俺と、そういうことになるのに相当抵抗があるらしく(なんせやっちゃった二回とも俺たちは泥酔していた)、酔っ払っている状態からだんだん酒量を減らして徐々に慣らしていく戦法らしい。

 それ知ってる、アレルギー体質をちょっとずつ治していくやつだろ、経口免疫療法とかいうやつ……。

 分かっている、やらせてもらえるだけいいのだということは分かっている。姫野の抵抗が照れからくるものだと思えばかわいいものだ。

 だがしかし、しかしだ。

 俺はもう酔っ払った姫野とやるのはうんざりだ。


「なんで泥酔してねーのに翌朝記憶が曖昧なんだよ!」

「そ、そういう体質なんだから仕方ないじゃない……」

「だったら黙ってしらふでやらせろっつーんだ!」


 そろそろガチギレしそうである。いやもうしているのか。

 今日の酒量は、ストロング缶二本。ここで止めればまだ記憶は鮮明だろう。酔っ払うとひどいが、姫野は酒は強いほうだ。

 ここからさらにあと二本追加しようとしているのを死ぬ気で止めている。


「この間はもうちょっと飲んだでしょ……だから今日は四本……」

「ふざけるのも大概にしろ……」


 俺の部屋で、姫野は鮭とばをつまみに三本目を開けようとしている。それを阻止しながら、引き戸で続く寝室に、俺はこいつを放り込もうとしている。

 抵抗に次ぐ抵抗。ここまで、意識がある状態で抱かれるのを嫌がられると、なんかこっちもちょっと傷つく。

 ぎりぎりと攻防を続けながら、つい駄目なほうに考えが散っていき、だんだん引っ張る腕の力が弱くなってしまう。


「おまえは」

「……?」

「俺とやるの、そんな嫌なの」

「…………そうじゃ、ないけど」


 姫野が、力を緩めた俺に、抵抗をやめた。話し合いの場ができる。

 姫野のとなりにあぐらをかいて座り、じっとその目を見る。逸らされる。


「俺は、おまえとやりたいよ」

「……」

「好きだし、触りたいって思う」

「……」

「姫野はそうじゃない?」


 答えを促すように問いかけると、姫野は長いこと口の中でああでもないこうでもないと言葉を練り、あげくにローテーブルに突っ伏した。


「……私は、そう簡単には割り切れない」

「は?」

「ずっと友達だったのよ、なのにいきなり、その、そういうの、言われても、意識しすぎてうまくいかないの……」

「……」


 そうだ、俺たちは二年も友達(友達と呼べるかは微妙だが)をやっていた。それがいきなり恋人に変わってしまって、意識するのは当たり前だ。

 だが、俺から言わせれば、意識してもらわないと困る。そのためには、酒でうやむやにされては、駄目だ。


「意識してくれねーと、困るんだけど」

「え……?」

「俺に触られて、恥ずかしくなれ」

「な……」

「つーか決めた」


 普段はストロング缶二本でこいつはこんなふにゃふにゃにならない。身体を動かして、口論して、回ってしまったのかもしれない。

 テーブルに額をつけてこちらを見てもじもじしている姫野に、俺の細くて短い堪忍袋の緒が切れた。

 テーブルのそば、フローリングの上に姫野を押し倒す。一瞬きょとんとした姫野が、状況を理解して暴れ出すのを手首を握りしめて封じる。


「俺はおまえに今からめちゃめちゃ恥ずかしいことをする」

「何言っ、あっ、ちょっと!」

「忘れたなんてぜってぇ言えないくらい恥ずかしいことをする」

「やめて、柊くん、やだってば!」

「明日の朝忘れたとか言ってみろ、朝から恥ずかしいことするからな」

「柊くん!」


 そんなこんなで散々恥ずかしいことをした翌朝、目が覚めた姫野は俺のみぞおちをグーで殴ったあと、きまり悪そうに言った。


「こんなことになるなら、もうお酒やめる」


 どうやら、食物アレルギーとは違って荒療治が効くようである。

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