第161話 レオの魔法

 レオの冒険者登録を済ませ、ランク差はあるが三人がAランクという事もあって、無事Bランクの依頼を受注することができた。


 と言ってもいきなりゴブリンの巣につっこむわけにはいかない。


 レオの杖は、今現在この世界ではメネウしかできないエンチャントの魔法の土台になる可能性がある。


 魔法のおさらいをしよう。まず、複雑な魔術式があり、その魔術式を呼び出す呪文があり、呪文と自らの魔力によって発動する魔法を実現するために杖等の魔法媒体で周囲の元素を集めて、発動する。


 魔法を使うのは一瞬だが、これだけ複雑な手順を踏んで発動させるのが魔法である。


 そして、この世界には魔導具というものがある。魔導具というのは、あらかじめ道具に魔術式を刻んでおく事で、魔力を注ぎ込めば自動的に魔法を発生させる道具である。あくまで道具であり、決められた魔法を発動させるだけのものだ。


 そして、レオの杖。これは一見魔導具に見えるが、魔法媒体に魔法を纏わせる、とレオは言っていた。杖を魔導具にしているわけでは無い、杖に魔法を纏わせる、これはメネウのエンチャントの魔法である。


 杖自体に魔術式を刻んでいるから魔導具から着想を得たのだろうが、あくまで魔術式を刻んだ魔法媒体に魔法を纏わせる……つまり、発動させる事が目的ではなく魔法媒体自体を魔術式にして魔法をとどめておく、という発想だ。


 今は自分の杖で実験を繰り返しているのだろうが、もしこれが他の武器にも可能になれば、炎の剣や氷の剣といった属性武器の開発や、エンチャント魔法の開発が一気に進む。


 という訳で、レオの魔法がどういった物なのか、どれだけ戦えるのかを見る為に、ミアモレの街から程近い草原で低レベルの魔物を倒す所を見せてもらう事にした。


「い、言っておくけど俺は研究職が本職で、魔法使いっつーわけじゃねーからな……?! 期待はすんなよ!」


 威勢よくそんな事を言っていたが、メネウが見たいのはレオの魔法である。


 それが魔物を倒そうが倒すまいがどちらでもいい。


「うん。危なくなったら助ける。俺が見たいのはレオの魔法。きっと綺麗だと思うんだ、だから見せて、レオ」


 メネウは静かにレオを促した。心からの言葉だった。


 近くにはホーンラビットという低級の魔物がいる。


 レオはホーンラビットに向けて魔法を放つ前段階で、呪文を唱えた。


「我資格を持つ者なり、声に応えよ魔法、標に集いて我を助けよ……」


 レオの呪文に応じて、レオの魔力に杖の模様が反応して光る。刻んでいるのは木の魔法なのだろう、濃い緑色に光っている。


 その光に集うように、風も無いのに草原の草がレオの周囲だけふわりと倒れる。元素が渦を描いて杖に集ってきているのだろう。


「エレメントチャージ・ウインド!」


 呪文を唱え終わると、レオの杖は仄かに緑色に光った。小さな風が杖の周辺に集まっているのが視覚で分かる。


 メネウだけでなく、ラルフとモフセンもほうと目を見張った。


 そして、メネウは確信した。これはエンチャント魔法だと。この世界でも、ちゃんとこの段階まできている。これなら、メネウはレオにとって役に立てる。


「やった! 成功した!」


 レオはそれで喜んだが、今は魔物を倒す時である。後ろでメネウたちも見ている。


 杖へのエンチャントは成功した。その杖に纏わせた魔法を、どう扱うかも問題である。


 その杖で殴るのか、その杖で魔法を発動すると何か効果が増幅されるのか。


(どっちだ? エンチャントだったら殴る方がいい気もするけど、杖へのエンチャントって考えた事なかったからな)


 メネウはじっとレオを見ていた。絵を描く時程の集中力でもって彼を見ている、メネウにとっては珍しい事だった。


 と、思ったらレオは魔物めがけて杖を振った。当たる距離ではない、魔物からはまだ気づかれていない位置から、魔法を纏わせた杖を振っただけだ。


 無詠唱でエアカッターが飛び出し、見事にホーンラビットに命中した。


 短い悲鳴を挙げてホーンラビットは一撃で沈んだ。結晶に即座に変わる。


「おぉ……!」


「逸材だな。お前の、エンチャント、だったか? あれを解明するならトットだと思っていたが……」


「なるほどのう、面白い発想をするものじゃ。杖にはまだ魔法が残っておる、これならば継戦能力も充分、しかも即時に敵に反応できる。この魔法は画期的じゃ」


 後ろで見ていた三人が三者三様にレオの魔法に感嘆する。


 魔法に明るくないラルフでも分かる。


 魔法は術式を覚えて、呪文を唱え、元素を集めて発動するもの。


 それが、呪文を集めて魔法を発動させれば、その後暫く無詠唱で魔法を発動し放題になるのだ。


 杖へのエンチャントで魔法は弱点を大幅に削減できる。これはメネウにも無かった発想だ。


「レオ! 君すごいよ、すごい! この魔法、絶対完成させてね!」


 メネウは結晶を拾って満足そうにしているレオに駆け寄ると、思いっきり抱き締めた。


 レオは赤くなったり苦しくて青くなったりと忙しそうにしている。ラルフが見かねてほめちぎっているメネウを引きはがした。


「レオの魔法は本当にすごい! だから俺も、レオの力になるようにある魔法を見せるね! ラルフ!」


 笑顔でレオを褒めながら、テンション高くメネウはラルフに剣を抜くように声をかけた。


 近くにはまだ魔物が居る。ラルフもメネウがしようとしている事が分かったので、渋々剣を抜いた。


「これはレオが目指している魔法の枝葉の一つ。きっとレオなら、だれもがこれを使える世界を作れる」


「……?」


 不思議そうにしているレオの目の前で、メネウはラルフの剣に炎のエンチャントを行った。


 これはメネウの創造した魔法。無詠唱、術式も不明、しかし確かにラルフの剣には炎が宿り。


「!!」


 驚くレオの前で、ラルフは近くに居たスライムに炎のエンチャントのかかった剣で斬りかかり、一撃で結晶へと還していた。

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