第128話 異変報告・2
「……と、言うわけでセト神が偶々現界して水の精霊カプリチオと俺たちの間を取り持ってくれまして」
メネウたちは翌日、ギルドに来ていた。セティはさっさと旅立ってしまったので4人だけである。
ギルドマスターの部屋に通され、長椅子に座って昨夜神々と打ち合わせした通りの説明を行ったところである。
メネウの口下手もあって結構な時間がかかってしまったが、ようやく長い話も終わりを迎えようとしていた。
「……つまり、なんだ、カプリチオがダンジョンとして再び機能し始めた、という事なんだな?」
「そうなってるはず、です。俺たちは精霊に会いたかっただけなので、ちゃんと潜って確かめた訳じゃありませんが……」
難しい顔をして考え込んだギルドマスターは暫しの沈黙を経て膝を叩いた。
「分かった。それはこっちで信頼できる冒険者を送って確認する。その後開放するかどうか判断しよう。……お前たちには戦後処理をきっちりこなして貰ったからな。信用する」
メネウはほっとして胸を撫で下ろした。
自分の決してうまいとは言えない説明でもなんとか納得してもらえたようだ。
水の精霊と竜の不在については口を継ぐんだが、基本的にダンジョンに潜るのはお宝目当てやレベル上げをしたい冒険者だ。大した問題では無いだろう。
メネウはカプリチオともクヴェレとも繋がっている。どこに居るかも分かるが、海は広大でそれに夢中になっているとぼうっとしてしまうので意識的に切り離すようにしていた。
人間の世界にとっては彼らがアペプから逃れるために逃げ続けている事は関係のない事なのだ。ラルフたちもそれを分かっているから口を挟むことは無かった。
「じゃあ、俺たちはそろそろ別の町に向かおうと思うので……」
「いや、それなら送別会を開かせてくれ。お前たちに世話になった人間は多い、見送りができなかったとなったら暴動が起きる」
それはうっかり治療舎にいた元兵士たちに情報を流してしまった(ギルドマスターとは言えあの人数に詰め寄られたら存分に同情の余地はあるのだが)ギルドマスターのせいではあるのだが、昨日の歓迎ぶりを思い出すに、たしかに黙って出て行ったら大変な事になりそうである。
「次の町の予定は立っているのか?」
「古のダンジョンがある所に行きたいんですけど……」
「なら首都ナダーアだな。トロメライがあるのはナダーアの背にあるナディア山に繋がってる。ナディア山については知ってるか?」
ギルドマスター……ヴァンが親切に教えてくれた事には、今は休眠中の火山だという。ナディア山の裏手には広くヴァラ森林が広がっており、高低差の関係から噴火するとナダーア側に溶岩が流れ、それが豊かな大地を作り農業大国と言われるナダーアが出来たという。
ヴァンがその場でサラサラと紹介状を書いてくれたので、ナダーアの冒険者ギルドでこれを見せれば話が通るようになった。
「ついでだ。お前らのランクをAまで引き上げる。どうせダンジョン巡りをするためにCまで上げただけなんだろう?」
「まぁ、そうですね。あんまりランクに興味は無いんですけど……」
「Aランク以上じゃないと入れないダンジョンがあるんだよ。いずれそこまで行くつもりなら、今回は百人力の仕事を片付けてもらったからな。ちょうどいいだろう。プレートを発行するから少し待ってろ」
メネウたちにとっては寝耳に水の話ではあったが、同時に大層ありがたい申し出でもあった。
ダンジョンに挑むのに忙しいのに、ランク上げまでやっているのは少々面倒である。
護衛依頼は馬車があるから大分楽だが、時間がかかる。
討伐依頼はすぐに終わりはするが、そこまで意義を見出せない。トットのレベル上げにはなるだろうが、トットの専門は錬金術である。戦闘方面でレベル上げをするよりは錬金術でレベル上げをした方が適正があるのは間違いない。
ありがたくお言葉に甘えて新しいプレートを発行してもらった。
「あ、それなら……今は居ないんですけど、セティの分も発行して貰えますか?」
「あぁ、あの姉ちゃんか。いいぜ、戦後処理で世話になったのは変わらないからな。お前らが会ったら渡しておいてくれるか?」
「はい!」
セティはダンジョン巡りをしている。Bランクなのは知っているから、今頃ランク上げに勤しんでるかもしれない。
ただ、Bランクになるとそれこそ野良でパーティを組んでちまちまと依頼をこなしていく事になるだろう。
セトの話がたしかならナダーアに行けばセティにもすぐ会えるはずである。
こうして5人分のAランク冒険者のプレートを貰うと、メネウたちは今夜、町の中心にある広場に来るようにと言われてギルドを後にした。
「Aランクか、懐かしいのう。殆どメネウのおこぼれで上がってしまったようなもんじゃが」
モフセンがプレートを眺めながら笑い混じりに呟く。
彼は元々ランクの高い、有名な冒険者だったのだ。まさか老いてからこのランクに上がるとは思わなかったのだろう。
「実力は折り紙付きだからいいんじゃない? トットはAランクだけど一人で魔物退治とかしちゃダメだよ」
「はい! でも、Aランクなら入れる森とかがあったら採取には行きたいです」
「そういう事なら俺たちが付き合おう。急ぐ旅でも無いからな」
「そうだね、行きたい所に行きながら、俺たちのペースで旅を続けよう」
言いながら彼らは農業ギルドに寄った。
エリーはメネウたちに気付くと書類から顔を上げて寄ってきた。
「どしだ? 何か問題でもあっだが?」
「いや、俺たちそろそろ旅立つからさ。なんか今夜広場で送別会してくれるらしいから、エリーも来てくれるかなって」
「なんだぁ、おめらもう行っでまうのがぁ? んだらば見送りさいがねどなぁ。ギルドの仲間さはおらから声掛けとくから時間までは旅支度でもしだらいんでねが」
「あ、そうだね。色々買い込んでおいた方がいいよね、ありがとうエリー。じゃあまた今夜!」
「おう、まだあどでな!」
エリーとのやり取りを終えるとメネウたちはアーティのゴンドラに乗って、いろんな屋台を巡って食材を買い込んだ。
新鮮な魚もメネウのポーチに入れておけば鮮度はそのままである。モフセンは肉より魚派なので多めに買い込んだ。
ナダーアまでは地図によると内陸に戻る形になる。街道沿いに行くならラムステリスにも寄れるので、一度顔を出して行くかと相談して決めた。
メネウにとっては昨日会って話し合ったばかりだが、他のみんなにとっては神に会えるなんて奇跡は普通起こりえないものである。
拝めるものなら拝んでおきたいという感じらしい。トットはあの時のお菓子が大層気に入っているようで、また貰えるかどうかが楽しみなようだった。
こうして買い物や旅路の相談を済ませている間に、あっという間に日は暮れていった。
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