第87話 お楽しみのスカラベギルド

 戦争から帰ってきてすぐにリングに一連の報告をすませると(彼女は呆れた顔をしていた)メネウは何が何でも眠りたいとばかりに宿屋に帰った。


 トットの出迎えもそこそこに寝てしまったので、ラルフとモフセンが代わりに情報交換した。


「では、まだ軍では使われていなかったんですね」


「あぁ、そちらはどうだ?」


 トットは首を横に振った。


「これ、毒じゃないから解毒できないんです」


「なんと。では、原理はわかったのかの?」


 今度は頷いた。しかし、自信なさげに視線が揺れている。


「わかった、というか……分かったんですけど、分からないんです」


 どういう事か気にはなったが、これはメネウが起きてからの方がいいだろうと結論付けた。


 夕飯は宿で摂る事にして買い出しから帰ってくると、ようやくメネウは目を覚ましていた。


「おはよう〜〜……うわ、いい匂い」


「飯だぞ。置いて行ったら後で何を言われるか分からんから買ってきた」


 薄焼きのパンに具材を挟んだ料理を20個程紙袋から取り出す。


 魔力を使った後の人間はよく食べるので、メネウとカノンが多めに食べることを想定してのことだった。


 案の定、一人と一匹は勢いよくパンに噛り付いた。喉を詰まらせる勢いで食べていく。


 パンの中身はヤムヤム牛を甘辛く焼き、刻んだ辛味のある野菜と挟んだものと、白身魚のハンバーグにキノコが挟まったものの二種類だ。10個ずつある。


 ラルフとトットとモフセンとヴァルさんが各1個ずつ。スタンはトットから分けてもらって突いている。


 なのでメネウとカノンはそれぞれ3個ずつをペロリと平らげた計算になる。旺盛どころではない食欲だった。


「あ〜〜……食った食った」


「わふ」


 メネウとカノンは満足げに体を伸ばして暫し食休みをすると、トットに向き直った。


「すぐに話を聞かなくてごめんな。どうだった?」


「はい。この薬は、毒ではないので解毒はできません。ただ、メネウさんがやっているエンチャントに似た効果を発揮します」


「なるほど、だから原理がわかったけどわからんのだな」


「魔力癒着については研究中の分野なんです。ただくっつけて一緒にしてしまうのは僕をはじめとする錬金術師ならば可能ですが、時間と共に効果が消えて元に戻るので……エンチャントに近い効果を持っているみたいです」


 メネウは腕を組んで考えた。


(なんだろ、あと少し、あと少しのような気がするんだけど……)


「うぅ〜〜ん……そっか、ありがとうトット。また後でお願いするかも」


「わかりました。保留ですね」


 唸っても解決方法が分からなかったメネウは、まだ虚空を見つめて考え込んでいる。


 みかねたモフセンがこんな提案をした。


「のう、息抜きにスカラベギルドに行ってみんか?」


「行きます!」


 即答したのは勿論メネウである。


 スカラベと見れば蹴られる癖に、興味は尽きることが無いらしい。新しもの好きである。


「僕も興味あります!」


「……」


 そんな中、ラルフだけが一人、厄介ごとの匂いを感じて渋い顔をしていたが、お子様2名が行くならば付いて行かねばという使命感が優って全員で出かける事になった。


 スカラベギルドは町の中心にあるギルド区画に軒を連ねていた。


「こ、これは……」


「誰がみても、スカラベのギルドですね……!」


 メネウたちの第一印象は『派手』であった。


 鳥のような大きな翼を生やしたスカラベが、軒いっぱいにその翼をひろげている。


 スカラベの色は緑光する黒色で、金の縁取りがなされていた。翼は緑と金で彩られている。


 メネウにとってはどこか見覚えのある姿である。さすが神の使い、と言ったところだろう。


 これが木造二階建ての建物の入り口の上にべっと張り付いている。


「ふぉっふぉっ、やはり異国の者には物珍しいかの。様々な村にもこの看板の小さいものを掲げた出張所があるんじゃぞ」


「これデフォルトなんだ……」


 とりあえず中に入ろうとなり、メネウが意気込んで扉に手をかけた。


 ラルフは険しい顔で警戒している。


 最初は森で、二度目は大通りで、そして次は……。


「あいでぇ!」


「あ!ごめん、大丈夫?」


 扉を開けたメネウは平然としているが、彼にぶつかった女性は尻餅をついた。


 たっぷりの髪を肩の前で二つに縛っている女性は、作業着に長靴という出で立ちだが、目鼻立ちのはっきりとした美人だ。


「おめだぢよそ者かぁ?急に開けたらびっくりすんべや!」


 が、繰り出す言語に強烈な癖があった。


「いげね、そんなごどよりバンブルとガイネをさがさねど……!」


 そしてバタバタと外に駆け出して行った。メネウはぽかんと彼女の背中を視線で追うしかできない。


 ラルフは嫌な予感が的中して天を仰いだ。これは面倒ごとがあるに違いない、半ば確信を持って、彼は可及的速やかな解決を目指そうと決めた。

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