第24話 生エルフだ!

 ホブゴブリンの結晶を回収し終えて、そろそろ行くか、となった時である。


 ガサガサ、と森に群生する背の高い草をかき分けて、彼女はメネウに向かいそのままぶつかってきた。


「きゃっ……!」


「おっと、大丈夫?」


 メネウは冷静に倒れそうになる彼女を抱きとめる。細く括れた腰に、腕に当たる豊満な胸。役得と思ったが鼻の下を伸ばすこともなく冷静に観察する。


 そして目が合った。綺麗な青い瞳に、波打つ金髪、そして尖った長い耳。纏っているのがボロ布なのが気になるが、美しい人だ。


(エルフ……?! エルフだ! 生エルフだ!)


 内心で大興奮のメネウを差し置き、エルフは困ったような顔をしてメネウに両手をかざした。


「へ?」


「触れるな馬鹿者ォ!」


 そして超至近距離の爆破魔法がメネウの顔に炸裂する。


(表情と言動が合ってなくない?)


 と、思ったのが最後。


 メネウの魔法防御力999を僅かに超える魔法の攻撃により、彼は気絶した。


 気絶したメネウに恐怖の目を向けたエルフに、背後から気配もなく迫る男……ラルフがいた。


「うっ!」


 エルフの隙をついて手刀を落とす。一声あげてエルフも気絶した。


 さっきの爆発でメネウの頭が吹っ飛んだとラルフは思った。だが、近付いてみれば気を失っているだけだ。


 抜刀するのをやめて手刀に留めたのはそのためである。


 ラルフは2人をそれぞれの腕で抱えると、安全な街道沿いに移動した。




 パチパチという火の弾ける音にメネウは目を覚ました。


 目を開けると満点の星空を背に舞う火の粉が力尽きてはまた流れてくるという景色だ。


「起きたか」


「ラルフ……? なんかゴメン、途中から記憶が無い。魔法を食らった気がするんだけど……」


 頭を片手でかきながら起き上がると、ラルフの横には気を失う直前に魔法を放ってきたエルフがそこにいた。


 手足を拘束されて、口に猿轡をかまされ転がされた状態で。


「ムーー! ムーー!」


「夢じゃなかったのか……」


「むしろ無事だったことに驚いたんだが」


 焚き火に薪木を焚べながらラルフが呟く。


 死んだ、と思ったらしいが、メネウは生きていた。


 エルフの姿を見れば何か事情があるのは明白。態とメネウを生かしたのだとしたら事情と釈明を聞こうという事で、こうして拘束していたらしい。


「どうしようか」


「スタンにでも睨ませればいいんじゃないか?」


「それいいね」


 メネウの肩にいたスタンは、当たり前のようにピンピンしていた。


 しかし、ご立腹のようである。目の前でメネウが殺されかけたのが腹立たしいらしい。


 そんなスタンを大きくすると、メネウは「エルフを睨んでおいて」とスタンにお願いした。


 チッ、仕方ねぇな、という顔でスタンがエルフを睨んで大人しくさせる。スタンの威圧はエルフにも有効らしい。微かにあげていた抗議の声をなくした。


「じゃあ、なんで出会い頭に殺されそうになったのか、話を聞こうか」


 メネウはエルフに近づくと、彼女の猿轡をずらした。


「ひ、控えよ! 我は奴隷の女王、マムナクである!」


 怯えながら震える声で涙目で告げられた奴隷の女王、という言葉に、メネウはラルフと視線を交わした。


「俺はメネウ、あっちはラルフ。睨んでるのがスタンね。当然ながら奴隷とか関係無い、ただの旅人。マムナク、話を聞かせてくれる?」


 メネウの言葉の裏には「あんな事しておいて理由も言わないなんて許さないからな」という意図がばっちり織り込まれている。


 それを察せないほどマムナクは愚かではなかったので、ポツリポツリと語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る