第23話 色々な仕組み

「お前一体どういう事だ?! 何の魔法だ!」


 ラルフが猛然とメネウに苦情を突き付けてきた。襟首を掴みかねない勢いである。


 ラルフの剣は未だ炎のエンチャント状態にあり、紫の刀身が赤く煌めいていた。


「いや~ははは……俺の、魔法?」


 この世界の勉強を始めて分かったのだが、エンチャントという発想がないようだった。


 魔法アイテムも『元からそういうもの』という形で属性のあるアイテムは作れるようだが、魔法を装備に纏わせる、という発想が無いらしい。


 というか、どうも理論立てると難しいようだった。


 通常のファイアボールの術式すら、メネウは(反則技で)理解はしても説明できないので、いかに魔法を収めるのが難しいかが分かるだろう。


 呪いの装備はエンチャントに似ている。装備者とアイテムの間で元素の結合、または元素による癒着が起きている状態。


 しかし「たまたまそういう状態」になるだけで、元素と物質とを一時的に融合・癒着状態にする、というのは研究段階らしい。


 サーチも、本来範囲指定して外側に向けて使う魔法なのだが、メネウはそれを使用者の目に付与する事で、視界全部をサーチの範囲にした使い方をしている。


 魔法創造魔法と、魔法改造魔法は、メネウの神絵師と万物具現化スキルと非常に相性が良かった。


 メネウが『こういう魔法があったらいいな』と描いたものが、勝手に魔法創造魔法で創作される。術式など難しい事は万物具現化スキルが自動で補ってくれているようだ。


 創造した魔法は一覧に名前が追加される。ラルフに使用したのは、炎のエンチャント、だ。分かりやすさ優先である。


 魔法は、世界の法則から大きく外れた事は出来ないが(それは万物具現化に頼れば良い)魔法という絵の具で描くのはメネウにとって楽しい体験であった。


 見た人にわかる絵を描く、という楽しさと言えばいいだろうか。見た人が何も理解できない絵を描いても、つまらない。


 アニメーターは、見た人に物語を分かるように描くのが命題なのだから。


 先ほどの5連結魔法も、魔法改造魔法で連結したもの。こういうイメージで、と思いながら筆を滑らせれば、イメージ通りに魔法が組み合わせられるのだ。


 いうなれば『世界をキャンバスにお絵描き』できる状態になっている、とメネウは解釈した。


 白金色の髪を振り乱したラルフが鬼の形相で聞いてくる。おい、呪いは解けているはずだよな?


「お前……、ステータスは一体どうなってる……?」


「あ~~……それ聞いちゃいますか~~……」


 メネウの心境としては、見せたくない。思い切り目を逸らした。


 ラルフは一度嫉妬して大変なことになっているし、シスターの言葉はメネウにたしかに身に染みている。


 どうにか見せずにごまかしたい。


「実は……記憶をなくす前に、魔法7属性というスキルを獲得していたらしくて」


「何……?! あの魔法7属性か?!」


 どの魔法7属性だよ。他にあるのかよ。


「そうなんだ、だから魔法はね、魔法は強いんだよ」


 地の攻撃力と防御力が魔法攻撃力と魔法防御力より劣るのは事実なので、嘘は言っていない。よな?


「そういう事か……」


 一人納得したラルフは落ち着きを取り戻したようだ。メネウにはさっぱりだが、それほどとんでもスキルなのだろう。


 何してくれてんだセケル、とは思えど魔法を描くのは楽しいので苦情は笑顔で飲み込む。


「俺を止めた時の体術は……」


「たまたま! たまたま習った所だったんだ」


 と、ここでエンチャントの効果が切れた。訝しげに剣を振って、ラルフは剣を腰に戻した。


 ラルフは勉強熱心なのだろうが、どうも魔法は明るくないらしい。スキルも剣技に偏っているのは先日のサーチで拝見済みだ。


 これならなんとか誤魔化せそうだ。


「だから、魔法でサポートは任せてくれよ。な!」


「戦いやすかったのは認める。だが……無理はするなよ」


 どうやらMP切れや、ヘイトを買って狙われた時の心配をしていたのもあるらしい。


 怪訝そうには見られたが、それ以上何か言われる事は無かった。


(確かにどの位MPが減ってるかとか気にして無かったな……)


 旅をするなら今後の道のりを考えて消費量をある程度抑えた方がいいだろう。いや、抑えなくても余裕で足りるだろうけど……たぶん……。


 一応、と思ってステータスを一度一部表示し、ラルフの視線が逸れた隙に全部表示して確認しようとした。のだが。


「あ」


「なんだ?」


「見て! レベル3だって!」


 一瞬キョトンとしたラルフだが、メネウがあんまり無邪気にステータスを見せてくるものだから、小さく笑った。


 そこには確かに、レベル3の文字。共闘したのがよかったのだろうか?


「レベルアップ、おめでとう」


「ありがとう!」


 ステータスに変動は無いだろうが、素直に嬉しい。これぞ成長実感である。


「さて、路銀はあるんだろうが、俺の金がない。結晶を回収するぞ」


「結晶?」


 その、本当に記憶喪失なんだな、って憐れみの目やめてくれます?


「魔物……モンスターを倒すと、元素結晶が落ちる。モンスターは元素の集合体に意識が宿ったものだ。その元素結晶が通常『結晶』と呼ばれる。結晶は長らく放置しておくと新たなモンスターの核になる。回収して冒険者ギルドで換金すれば、純粋な元素の塊に加工され、マジックアイテムなどに使用される」


「そりゃ回収した方がいいな」


 金はいくらあっても困るものじゃなし、ましてモンスターがまた生まれる元を放置しておく事はない。有り難く人類の発展と明日の飯代に貢献してもらおう。


 という事で、二人で倒したホブゴブリンの結晶を回収していたのだが、それを森の奥、遠くの崖の上から眺める一団がいた。


 メネウもラルフも気付かなかったが、それは相手がスキルを使っていたせいだろう。肉眼ではまず捕捉出来ない距離なのだ。当たり前とも言える。


「お頭、どうします。奴ら金持ってそうですぜ」


「決まってら。ちょうど獲物も奴らの方に逃げて行く……まとめて叩くぞ!」


「おう!」


 30人からなる集団が、声を揃えて応じる。


 その声もまた、距離に邪魔されてメネウ達には聞こえないのだが。

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