第14話 お勉強しましょう

 バレットに渡すチータ用の銀の足環を作成したものの、その前に確認しておかなければならない事があった。


 そう、自分がこの世界でどういう立ち位置にいるのか、である。


 先ほどのギルドの様子で、違和感を覚えた。


 もしかして、自分は「ちょっと強い冒険者」の立ち位置ではないのではないか。


 自分のレベル表記はあてにならないのではないか。


 怪我人が出て、すぐ医療ギルドに人を呼びに行こうとしたという事は、これだけの種類の魔法が使えるのは異常なのではないか。


 疑問が尽きなかった。違和感バリバリである。違和感というか、こう、浮いてる。世間から。


 バレットは箱入り娘のようで、知識はあるが外の常識を肌で感じていないために、メネウの異常さを正しく認識していない可能性がある。


(俺は学ばなければいけない……正しい知識を元に、異常さを隠蔽して生きていくために……)


 メネウの生きる目標は、絵を描きたい、である。


 描いてどうなりたい、わけではない。今でも描くだけならできるっちゃできる。


 ただ、絵を描く事一つにしても、万が一何かヤバイ位の補正が働いていたとしたら。(具現化するという補正が働いて既にやばいことになってはいるが)


 それを見た人が騒ぐほどの何かがあったとしたら。(実際にスタンで街の上を周回してしまった事で今は街が大騒ぎなのだが)


 ……これはいけない。今の自分に必要なのは、一般常識である。


 そう思って教会に足を向けた。


 ステータスを見られているし、あの反応の具合から見てステータスについて詳しい事は間違いない。


 シスターという性質上、街の人とも適度に交流がある。一般常識も兼ね備えているはずだ。


 となれば、シスターに聞くのが一番手っ取り早い。


「たのもう!」


「いらっしゃいませ、メネウさん。どうされました?」


「あ、ハイ」


 勢いこんで扉を開けたものの、シスターは先日と変わらない柔和な笑みで迎えてくれた。


「記憶喪失なもので、一般常識を学びたいなと思いまして……」


「勤勉なのは素晴らしい事ですね。では、個室でお勉強しましょうか」


「あ、ハイ」


 あっさり承諾されて個室に案内された。


 ……これが罠だったとは。


 かちゃん、と再び鍵がかけられる。不思議に思って振り向くと……。


「ふ、ふふふ……うふふふ……」


 シスターの笑みは、どこか黒いものに変わっていた。


 メネウの肩で、スタンがピッと鳴いて頭の後ろに隠れる。


「待っていました、あなたのステータスを思う存分見る事ができるこの時を……!」


「ま、まさか……?!」


「そうです! この時のために私はあえて詳しく説明しなかったのです!」


 さぁ見せろ、すぐ見せろ、というプレッシャーで迫りくるシスターに、一抹どころではない不安を覚えながら、メネウは壁を作るように片手を差し出した。


「み、見せますが、条件があります」


「なんでしょう?」


「ちゃんと、嘘偽りなく、俺に知識を与える事」


「もちろんです」


 神に誓って、とシスターは宣誓した。それ、信じてますからね?


 向かいに座ったシスターは、では、と自分のステータスを表示して見せてくれた。


 一部公開では無い、全部だ。



 アリス

 女 27歳 牛の月3日

 職業:シスター

 LV.68

 HP 6500/6500

 MP 850/850


 攻撃力 24

 防御力 120

 魔法攻撃力 145

 魔法防御力 250

 素早さ 72

 運 145


 保有スキル

 回復魔法特化 神のお告げ 防御の加護


「いかがですか?」


 シスターが笑いながら聞いてくる。


「何というかこう……」


 弱い? というか、普通? 見慣れた数字というか。


 ゲームとかでも大抵こんな感じだよな。というか。


「弱いでしょう? でも、私はこれでもかなりステータスが高い方です。元冒険者ですし、3桁がありますから」


「へ?」


「それでも通常の枠を出ません。だから、大体これが一般的な冒険者の通常値、と思ってください」


「……はぁ~~?!」


 メネウのお勉強は盛大なブーイングから始まった。

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