第12話 冒険者ギルド
「ひどい夢だった……」
メネウは眉間を抑えて独り言をつぶやいた。
周りには人が往来している。賑やかな街中だ。
ハーネスが商人ギルドへ向かう馬車へ相乗りさせてもらい、バレットと一緒に商人ギルドから冒険者ギルドへ向かう途中であった。
「大丈夫ですか? お顔の色が優れませんが……」
バレットとチータが顔を揃えて此方を覗き込んできたので、心配させないように笑う。
「いや、大丈夫。……ところで、ギルドって商人ギルドと冒険者ギルドの他には何かあるの?」
ギルドの種類は知っておきたい事なので、話を逸らすついでに尋ねてみた。
「そうですね、この町には4つのギルドがあります。商人ギルド、こちらは父が支部長を務めるギルドですね。商人が登録します。そして今向かっているのが……」
「冒険者ギルド」
「はい。メネウ様のように戦闘や探索に向いた方が登録しお仕事の斡旋を受けます。危険作業ですので諸々の研修やパーティの組み方講習なども行われていますよ」
商業ギルドが商工会議所で、冒険者ギルドは職安みたいなものか、と頷く。
「他は医療ギルド。傷病者の治療を専門に行う【治癒師】や、解呪を行う【解呪師】、【結界師】などが登録しており、他の職業の人はそこでお金を払って治療してもらいます。冒険者ギルドのパーティへの治癒師の派遣などもやっていますね」
病院兼医者の派遣会社みたいな感じか。
「最後は騎士ギルド。これは国家運営のギルドですね。様々な集落への騎士、兵士の派遣、その土地の治安維持、新兵の雇用を行なっています。商業ギルドに次いで数が多いです」
これは分かりやすく警察や部隊だな。
「ありがとう、じゃあやっぱり俺は冒険者ギルドだな」
「そうですね。冒険者ギルドと言っても紹介される仕事は様々ですし。職業から見てもあってると思います」
その時、よそ見をして歩いていたから、一人の男にぶつかってしまった。
「あ、すみませ、……ん」
ぎろ、とこちらを睨む眼光が鋭い。
ぶつかった感触が硬かったのは全身鎧を着ていたせいだろう。上背も高いし胸も厚い。
白金色の髪を長く伸ばした若い騎士は、興味なさげにこちらを一瞥して去っていった。
「大丈夫ですか? 今のは騎士ギルドの総まとめをなさっているラルフ卿ですね」
「あの若さで総まとめ? すごいね。怒らせてないといいんだけど」
「たぶん大丈夫です……。いつもあぁなのですが、何かあれば助けてくださる方なので」
バレットが遠い目をして彼の背中を視線で追いかけている。
メネウにはピンときた。これは恋する乙女の顔だ。何度も描いたが生で見るのは初めてだ。
(絵になるなぁ……)
可愛いとかヒロイン枠じゃ無いのかよとかよりも、やはり描きたいが先に来る。
しかし、今のところまだ人物を描くのは不安だ。万が一具現化した時に、それが本物の生物で同一人物だった場合、どうしていいか分からない。
「さぁ、メネウ様。つきましたよ」
「おぉ、ここが……」
一見すると煉瓦造りの普通の二階建ての民家に見えるが、たしかに看板が下がっている。
少しだけ緊張しながら中に入ると、左手の壁がカウンターになっており、中では軽い飲食をしながらワイワイと過ごす冒険者でいっぱいだった。
丸い机が各所に置いてあり、立ち飲み屋といった雰囲気だ。
「いらっしゃいませ。斡旋ですか? ご登録ですか?」
カウンターの一番手前の眼鏡の少女が尋ねてきた。
栗色の髪を肩の前でおさげにしていて、その上童顔だ。15歳くらいに見える。
「あ、登録デス」
「ではこちらへどうぞ~~。案内を務めるミアです」
彼女の前へ移動すると、教会で見たものと似たような石のついた石版を出された。
「ステータス開示をするの?」
「一部開示の情報を登録するだけですよ~~。レベルや年齢をリンクさせておくので自動更新されます~~」
ハイテクな石版だな。
「とりあえず見せてもらえます?」
彼女はそう言って自分のステータスウインドウを表示した。
ミアという名前、年齢はこの見た目で21歳? うわぁ童顔。職業は【軽業師】。今はここで案内をしているが、それとは別に冒険者でもあるのだろう。
バレットも表示し返したので、メネウも続けて表示させた。
「なるほど、召喚術師ですか。お仕事色々ありますよ~~、何が召喚できます?」
「あ~~……、それが、実は旅の途中で崖から落ちて記憶喪失で……」
「アレマ。では召喚術はお使いになれないんですか?」
「いいえ。メネウ様はこのチータを召喚してくださいましたよ、昨日」
バレットが笑って肩のチータの胸元を撫でる。チッチッとチータも嬉しそうに答えた。
視線をミアに戻すと……ミアが固まっている。
いやまてこのパターンは嫌な予感がする。
「ミ……」
「メネウさんさては凄腕ですね?! 召喚は使っている間MPを消費し続ける普通の召喚と、魔物や魔獣と契約をして従僕させる永続召喚があるのですが! 永続召喚なんてそうっそうお目にかかれませんよ!」
ア、と言う間もなくまくしたてられた。
(あーーあ、ギャラリーが集まってきた……泣かれなかっただけマシだけど……あぁなんか、空気がむさ苦しい……酔いそう……)
ギルドの中にいた冒険者たちに囲まれて、その目の前で登録することになってしまった。
その上、なぜかギルドにいたレベル60の剣士が手合わせしたいと言いだし、あれよあれよという間にギルド裏の演習場で試合をする事になり……賭け事にまで発展しては、拒否権なんてメネウには無かった。
「別に試合はいいんだけど、さて何を出したものか……」
考えながら試合場に立つ。バレットは観客席でメネウの勝利に疑問も持たずににこにこしている。目が合うと手を振ってきたので振り返した。
(なんでこんな事になったんだっけ……あぁ、セケルが……ホルスたんが……俺のステータスもスキルも盛ったから……)
相手の騎士は30代半ば、ちょうどベテランに差し掛かる頃だろう。
構えるは両手剣。重そうな剣を軽々と振っている。
対するメネウは右手にペン、左手にスケッチブックだ。
「試合、始め!」
「なら、責任とって貰いましょうか!」
メネウは猛然と描き始めた。
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