甘い旋律を奏でるそのピアノは、二人の心に何を伝えるのか?

★【長】『序曲 プレリュード from season to season』作者……中澤 京華さま

             『登場人物一覧』


高木たかぎ 真智子まちこ……音大(桐朋学園大学)を受験する予定の三年C組の女子高生で、今作の主人公。ピアノ演奏が趣味で、放課後は音楽室で時々ピアノ演奏をしている。本人いわく、ピアニストになった気分を浸れるとのこと。

 当初は音大を目指す予定はなかったが、高校生になってから意識する。慎一と同じ芸大は不合格になったものの、桐朋学園大学に無事合格。光が丘の駅近くに住んでいる。

 二年生まではサッカー部のマネージャーをしていた。音大受験に集中するためにピアノの練習に励むという流れになり、三年生にマネージャーを辞めてしまう。

 慎一の叔父のことを「叔父様」と言っていることから、育ちや品の良いお嬢様だと思われる。慎一に好意を抱いている。


           『課題曲(桐朋学園大学)』

      (a) ベートーベン『ピアノソナタ 第二番』

      (b)ショパン『エチュード Op二五-一 エオリアンハープ』

      (c)ベートーベン『ピアノソナタ 第一〇番』

      (d)シューベルト『即興曲変ホ長調 Op九〇-二』

      (e)ドビュッシー『ベルガマスク組曲 プレリュード』


真部まなべ 慎一しんいち……一週間前に三年A組に転校してきた、男子高校生。真智子と同じく音大(桐朋学園大学)を目指そうという発言がある一方で、四大や留学の話もあるようだ。最終的に東京芸術大学(通称芸大)を目指しており、今は叔父の幸人の家に下宿している。無事芸大の実技試験も合格し、正式に進学する。真智子いわく、かっこいい転校生として話題になっている。しかし慎一の母は、彼が中学生の時に他界している。実家は奈良県。

 慎一いわく、母は体が弱く繊細とのこと。だがピアノを慎一に教えたという説明があることから、ピアノ演奏の技術は相当なものであると思われる。真智子へピアノ指導をする場面があることから、慎一のピアノ演奏技術も相当なもので、真智子が聴き入るほど。


            『課題曲(芸大)』

      (a)ベートーベン『ピアノソナタ 第一四番 月光』

      (b)ショパン『エチュード Op一〇-四嬰ハ短調』

      (c)ベートーベン『ピアノソナタ 第一七番 テンペスト』

      (d)シューマン/リスト『献呈 君に捧ぐ』

      (e)ドビュッシー『ピアノのために プレリュード』


田辺たなべ 修司しゅうじ……サッカー部に所属する男子高校生。真智子がサッカー部のマネージャーだったころは、誰もが認める公認の仲だった(真智子が修司のためにお弁当を作る・ふたりで待ち合わせをして試合会場へ出かけるなど)。だが真智子がサッカー部のマネージャーを辞めてしまったことで、二人の距離も次第に遠のいてしまう。


杉浦すぎうら まどか……真智子の親友で、二年生までサッカー部のマネージャーをしていた。受験勉強による多忙で一緒にすごす時間は減るが、時折昼休みに一緒にお弁当を食べるなど交流がある。放課後は塾に通っており、理系の大学に進学する予定で。慎一と同じクラスに在籍している。


真部 直人なおと……慎一の父親で幸人の兄。母親の由希子が亡くなったことで、慎一との仲が悪くなる。奈良県の資産家であるため、お金の心配はしていない模様。慎一は芸大を目指しているが、父直人はドイツ留学させるという方向で物語が進む。

 慎一の学費・生活費はすべて直人負担。


真部 幸人ゆきと……慎一の叔父で直人の弟。東京に上京している慎一に対し、住まいを提供している。


真部 由紀子ゆきこ……慎一の母で直人の妻。慎一にピアノを教えたのが由希子だが、病弱体質。慎一は母由希子にだけは心を開いていたが、彼女は突然病気により他界してしまう。


高木 たかし……真智子の父親。


高木 良子りょうこ……真智子の母親。


           『特徴・印象に残った点』


一 お互いに音大へ進学するという夢や目標を持ちながらも、友情や淡い恋愛感情を秘める真智子と慎一の微妙な距離感が最大の魅力です。本当はもっと親しくなりたい・相手のことを知りたいという淡い恋心を秘めながらも、お互いに今の自分を懸命に生きる姿もポイントです。

 実在する地名が数多く登場する演出についても、物語をよりリアリティあるものにしています。


二 作品名にある『序曲 プレリュード』をはじめ、物語には数多くのクラシック音楽が登場します。数々の名曲に特徴に一つ一つが、真智子と慎一の微妙な心情を表現しているようで、とても上品な作風に仕上がっています。数多くのクラシックが登場する作品なので、これらの音楽を聴きながら物語を読むと、より臨場感かつ読みごたえのある物語を堪能することが出来ます。


三 二と一部内容が重複してしまいますが、しっかりと落ち着いた表現が多いので、純文学小説のような世界観がポイントです。主要となる真智子や慎一らの性格が穏やかであるためか、物語全体もどこか品のある作風へと仕上がっています。

 またピアノ演奏をベースにしている物語ということもあり、読者自身も自然とクラシック音楽やピアノを演奏したくなる――そんな不思議な感覚を覚えます。


四 真智子と慎一をはじめ、修司やまどかたちとの関係も良好になっていく流れは良かったと思います。受験を一つのテーマにしているため、独特のドロドロとした雰囲気になるのではと思っていましたが、そのような流れにはならなくて良かったです。


              『気になった点』


一 強いてあげるとすれば、作中に登場する言葉にルビが振ってあれば良いかなと思いました。下記ではあえて意味も加えておりますが、作品の中では特別説明書きは加えなくても良いと思います。


例……(a) 静謐→静謐せいひつ……静かで安らかなこと。

   (b) 宵闇→宵闇よいやみ……夕方のうす暗さ・日が暮れた時間帯のこと。


               『総合評価』


 受験生や受験勉強独自の重圧や苦悩にさいなまれながらも、お互いに成長し乗り越えようとする真智子と慎一の様子が丁寧に表現された、どこか懐かしい気持ちになる青春ピアノドラマ小説です。

 そして青春ドラマながらもベタベタの恋愛要素もなく、若干友情よりの作風もポイントです。万人受けする作品ですが、ピアノをはじめとする楽器演奏経験がある方、およびクラシック音楽が好きな方にはおすすめの物語です。


 また舞台となった歴史や国こそ異なりますが、真智子や慎一の心情と合わせてクラシック音楽を紹介する世界観は、ロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』と似ている部分があると思いました。映画の中で描かれる世界観の特徴として、破壊された街の映像とピアノの音色が見事に組み合わされています。


『序曲 プレリュード from season to season』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889396950

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