第536話 トンネルを抜けるとそこは――

 俺とココが階段を降り始めてすぐに、


 ズズ、ズズズズ――。


「っ!? おにーさん!? 勝手に入り口が閉まったよ!?」

 すぐに台座が元に戻り始めると、再び入り口を隠したのだ。


「……つまり自動ドアってことか」


 俺がもう一度入口へと近づくと台座がズズズと開きだした。


「向こうからは手動で、こっち側からは自動で開閉する仕組みになっているんだな」


「そっか……でもそうだよね。こっちから閉められないと開けっ放しになっちゃうもんね。それだとこの隠し通路の存在がバレちゃうもん」


「つまりこの階段の奥には誰かがいて――」

「ココたちには知られたくない何かがあるってことだね」


「そういうことだ。何が待っているかわからないからな。ここから先は最大限に気をつけていこう」


「う、うん……!」

 神妙な顔で頷いたココは、ちょっと――いやかなり不安そうに見えるな。


 でもそりゃそうか。

 ココは商人で身体も小さいから戦闘能力はゼロに近い。


 それで謎の隠し通路を進もうって言うんだから、不安になるなって方が無理な話だろう。

 なら――、


「ラブコメ系A級チート『お姫様抱っこ』発動――」

 俺は運搬にも便利なラブコメ系のチートを発動すると、


「ちょっと、おにーさん!?」

 ココをお姫様抱っこして持ち上げた。


「ココがすごく不安そうに見えたからさ。悪い、こういうの嫌だったか?」


 平静をよそおっててそんな風にさらっと聞いてみたんだけど……し、し、しまった!

 最近好感度マックスのモテモテハーレム生活にどっぷりつかりすぎていて、そうじゃないココにまでよく考えずに同じ対応をしてしまったぞ!?


 内心焦りまくりの俺が、ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』を全力ブッパして強引にうやむやにするか――とかセコいことを考えていると、


「えっと、それは全然嫌じゃないんだけど……ちょっといきなりでびっくりしたって言うか、一声かけてくれたら心の準備ができたかも的な? ……うん、全然嫌じゃないんだよ? むしろ役得だし――ごにょごにょ」


 俺の腕の中のココは、顔を赤くしながらごにょごにょ言っていた。


 あれ?

 今まであまり気にしたことがなかったけど、ココの好感度も割かし高いっぽい?


「でもそれなら良かった。じゃあこのままで進むね。これなら何かあった時にすぐ逃げられるからさ」


「りょーかい!」


 事後とはいえ本人の了解もとれたとこで、俺はココをお姫様抱っこしながら隠し階段を下りていった。

 危険を察知する知覚系S級チート『龍眼』は、今のところ特に反応はしていない。


 SSダブルエス級が居そうだな、とか思った俺の勘違いだったのかな……?

 でもいかにも秘密がありますって感じの隠し扉だったしなぁ……。


 そんなことを考えながらさらに奥底へと向かっていと、隠し階段は次第になだらかで平坦になってきて。


「もうほとんど平らな道だねー」

「これだと隠し階段とは言えないな、段差もないしただの隠し通路だ」


「周りも整備されてるっぽい?」

「さっきまでは岩肌むき出しのところが多かったけど、この辺は地面もかなり人の手が入ってるみたいだな」


「それってつまり――」

「ああ、間違いなくこの先に何者かがいる。多分ジェシカもそこにいるんだ」


「うん……!」

 俺の腕の中でココがごくりと喉を鳴らした。


 そして――、


「あっ! おにーさん、光が見えるよ! きっと出口だよ!」

「そうみたいだな」


 ついに俺たちは長い隠し通路を抜けて、終着点である出口にたどり着いたようだった。

 俺は警戒レベルを最大に上げると、いつ何が起こっても対処できるように慎重に歩を進めてゆく。


 ピクリと知覚系S級チート『龍眼』が反応した。

 

「出口の少し向こうに人の気配があるな――しかも複数」

「ええっ!? ってことは待ち伏せされてるのかな?」


「いや敵意は全く感じないし、出口からも離れてる。そもそも動きに統一感が全くないんだ。どうも俺たちには気付いていないっぽい?」


 そうして今や完全に水平になっていた隠し通路を抜けた俺たちを待ち受けていたものとは――、


「…………はぁっ!?」

「…………えぇっ!?」


 俺とココは目に飛び込んできたものを見て、思わず間抜けな声を上げてしまった。

 というのも――、


「なぁココ、確認なんだけどさ?」

「な、なにかな、おにーさん?」


 ――俺たちの前には街が広がっていたからだ。

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