第531話 「黄金の蛇口をひねって金ピカの湯船にお湯を張るんだー」
「着いたよ~」
そう言ってココが馬車を止めたのは森の中を半日ほど南に行ったところにある、木々を切り拓いたスペースに作られた小さな村の入り口だった。
ココは俺を下ろすと、手慣れた様子で馬を馬房に入れて干し草と水をやり始める。
それをなんとはなしに見ながら、俺は正直な感想を言った。
「静かな村だって聞いてたけど、これはなんというか思ってた以上だな……」
「獣人族はみんなこんな感じで、小さな村でひっそり過ごしているんだよ」
「ふぅん」
「狩猟採集の他に、職人が多くていろんなものを作っているんだけど、商売はあまり得意じゃないんだよね。流行にも
「職人っていうと、俺もなんとなくそんなイメージはあるな」
口下手で世情に
「だからココはこの辺一帯の職人さんに最近の流行とかの情報を持ち帰ることで、売れ線の商品を作ってもらって、さらにそれを独占的に買い取って街で売っているってわけ」
「生産者に情報提供までしてるのか……ココはただの小売業かと思ったらかなり手広く流通業をやってたんだな。正直驚いたよ」
「ココはビッグになるからね、これぐらい普通ふつー。それに作ったものがいっぱい売れたらみんなの生活も良くなるでしょ? 獣人族は手先が器用でいいモノを作れるから、ちゃんと売れ線さえ押さえておけば絶対に負けない勝負ができるしねー」
「なんだかんだでココはすごいなぁ。でもちょっと意外かも。ココを見てると獣人族ってもっとアクティブなイメージがあったからさ」
「ココは小さな村で工房に
「そっか……うん、応援してる」
都会に出て自分の人生をかけて勝負する。
素敵なことだと思うよ。
この世界に来るまで俺は自分の意思なんてなくて流されながら生きてきたから、夢と希望を抱いて頑張る人を見るとすごく輝いて見えるんだよな――、
「ココはね、お金を貯めていつか金色のおっきなおうちを建てるの。外も中も真っ金々のゴージャスなセレブハウスに住むんだから。黄金の蛇口をひねって金ピカの湯船にお湯を張るんだー」
「ああうん、まぁお金は大事だよな……」
確かにお金は大切だ。
何をするにしても、まずは金銭面をクリアできるかが問題となることが多い。
でももうちょっとお金とか金の家とかそういう以外の夢やロマンが感じられたら、俺はもっと素直に応援できるんだけどなぁ……。
「その点、おにーさんのあのキンキラキンの馬車は最高にクールだよね。見たか俺が大公だ、どやって感じ! すごくイケてるよ!」
「あれは誓って俺の趣味じゃない。前の辺境伯からなし崩しで引き継いだだけだから誤解しないでほしい」
「またまたぁ、
「いや謙遜ゼロで事実100だから」
――と、
「あれ、なんか村の奥の方が騒がしくないか?」
「ほんとだ。どうしたんだろう? いつもは静かな村なんだけど」
「……何かあったのかもな、行ってみよう」
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