第472話 俺は一つの決心をした
「勝ち筋はやっぱカウンターだな……ケンセーの突進の威力も利用した、すれ違いざまの渾身のカウンターによる一撃必殺・一発逆転だ」
なにせまっすぐ突っ込んでくるだけのケンセーの動きは、猛烈な威力とスピードだから対処がギリギリになるだけで、ただ予測するだけならば割と簡単ではあるのだ。
あとはそれに最高の一発を合わせるだけ――!
そういった作戦を練っている間にも、ケンセーは何度も何度も馬鹿みたいに突撃を繰り返してきては、俺にいなされ、捌かれ、かわされ、受け流されていた。
だけどケンセーはアタックが失敗に終わるたびに、
「えへっ、せーやくん、せーやくん、せーやくん――」
俺の名前を嬉しそうに口にしながら振り返っては、また馬鹿みたいにまっすぐ突っ込んでくるんだ。
「ケンセー……」
心が壊れてしまったケンセーの姿を見せられて、俺はそんなケンセーの気持ちに応えられない申し訳なさでいっぱいになっていた。
こんなになっちまうまで――こんな風になってしまっても、それでもただただ俺だけを見て、俺の名前を呼び続ける。
そんなケンセーの必死すぎる想いを見せられて――、
「ここまで深いケンセーの想いを、俺は本当に心の底から受け止めようとしていたんだろうか――?」
俺の中にはそんな疑問が浮かびあがっていた。
最初は小さな気泡にすぎなかったその疑問は、次第次第に大きな渦となって俺の心を波立てていって――。
どうしようもないの、抑えきれないの――そう言っていたケンセーの気持ちを、俺は現実世界に帰るんだと言って、
俺はあの時、ケンセーの心に触れようともしなかったんじゃないか?
俺は分かりあおうと手を伸ばすことすら、しなかったんじゃないか?
ただ俺の思う「当たり前」ばかり言って聞かせて、ケンセーの気持ちを受け止めもせずに説得しようだなんて、そんなことでケンセーが納得するはずなんてないじゃないか――!
「そんなのは、そんなのは
俺がそんな態度じゃ、そりゃあケンセーはどうしても納得できなかったよな。
だって聞く気がなかった俺のせいで、大切な気持ちが伝わっていなかったんだから――!
「ごめんな、ケンセー。やっと気づいたよ」
うん、なんかスッと心が晴れた気がする。
「よし――!」
考えるのはもう終わりにしよう。
ここからは行動で示すべきだ。
俺は一つの決心をした。
その決心とは――、
「『剣聖』、頼みがある。もうかわしたり受け流したりするのは、止めにしてほしいんだ。俺にはさ、あの子の気持ちを真っ向から受け止める義務があるんだ」
――ということだった。
「いや義務なんて受け身な気持ちじゃない、これは俺のたっての希望だ! 俺はケンセーの気持ちを、逃げずにしっかりと真正面から受け止めたいんだ!」
そうして初めてケンセーと分かり合うための土俵に立てるんじゃないかって、俺はそう思うんだ。
「俺のことをこうまで想ってくれる一人の女の子の気持ちを、他でもないこの俺がしっかりと受け止めてやりたいんだ! こうまでして伝えようとしている好意を、抱きしめ返してあげたいんだ!!」
だから『剣聖』、頼む――!
「どこまでも貪欲に勝利にこだわり続ける最強としてのお前の在り方を、今は少しだけ、俺とケンセーのために譲って欲しいんだ――」
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