第470話 チート波動砲

「いくよせーやくん……」

 頬を妖しく上気させたケンセーがゆらりと一度、その小さな身体を揺らした――その直後、


「シッ――!」

 ケンセーは弾丸のような速さで、恐れ知らずの武田の騎馬隊のごとく猛然と一直線に突っ込んできた!


「ここまでブーストすりゃ小細工なんかいらないってか――!?」


 知覚系SS級チート『真なる龍眼』がかろうじてその鋭い突進の一端をとらえ、連動した『剣聖』が《2年S組の剣おたまブレード》でもって瞬時の迎撃を行ったものの、


「ぐぅ――――っっ!? なんつー猛突進だ!?」


 受け止めた《2年S組の剣おたまブレード》ごと俺は、大型トラックに吹っ飛ばされたように軽々とはねとばされていた。

 それでも『剣聖』が上手く衝撃をコントロールしてくれたおかげで、俺は空中で姿勢制御しながら、壁際でストンと着地に成功する。


 が、しかし――、


「威力は《神焉竜しんえんりゅう》の尻尾の横振りテイル・スマッシュといい勝負ってとこか。それだと『剣聖』でもガッツリ受けて立つのはちょい荷が重いな……どうしたもんか……」


 ――俺の手には逃がしきれなかった衝撃による、少なくないしびれが残っていた。

 俺はそのにぶい痺れをかみ殺しながら、右手に握った想いのおたまを確認する。


「《2年S組の剣おたまブレード》は――よし、無事だな」

 ケンセーの突進とかなり激しくぶつかった《2年S組の剣おたまブレード》はしかし、傷一つついていなかったのだ!


 受け止めた瞬間、「負けるかー! ふんがー!」って気合十分の声が聞こえた気がしたんだけど、うん、あれは気のせいじゃなかったみたいだな。


 ありがとうな、頼りにしてるぜ、2年S組のみんな!

 ケンセーを止めるために俺に力を貸してくれ――!


 そしてそのケンセーはというと、

「もう、せーやくん、わたしのこと、さけるなんて……」


 突進の勢いそのまま体育館の壁を粉砕して派手に大穴を開けると、くるりと振り返って、今は体育館の外から中にいる俺のことを熱のこもった瞳で覗き込んでいた。


「まったく、せーやくんはいけずなんだから」

 言いながら、ケンセーは再び体育館の中に入ってこようとして――、


「ぶぅ! これ、じゃまだよね?」


 そう言ったケンセーの右手の平に、ギュワワワーンと膨大なエネルギーが集中しはじめた。

 そのまま突き出された右手は、体育館 (とその中にいる俺)に向けられて――、


「ちょっと待て!? おまえ何する気だよ!?」


「チートはどうホウ――」

「スポコン系S級チート! 『音速の貴公子アイルトン・セナ』発動!!」


 ケンセーが言い終わる前に、俺はS級チートの力で一歩目からトップスピードに乗ると、即座に体育館の出入り口に向かって全力で猛ダッシュした。


 必死の形相で体育館から飛び出た直後。

 ケンセーの右手から、直径5メートルはある巨大ビーム砲みたいなエネルギー波が発射され――、


 ドゴーーーーーーーーーーーン!!!!


 それは、まるで世界そのものが揺れているような激しい振動と爆音を伴って、体育館を文字通り木っ端みじんに粉砕した。


「あっぶねぇ!? チートを使って逃げなかったら体育館ごと俺、消滅してたぞ!? いやまぁケンセーは俺のこと殺すつもりなんだろうけど!」


 もし意識世界で消滅させられたら、現実世界の俺は脳死状態ってことになるのかな……?

 それはちょっとシャレになってないぞ……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る