第466話 夢の時間はもう終わりなんだ――

「言ったはずだぜ? 『剣聖』と『龍眼』の組み合わせは最強だってな」


 しかもそれだけじゃない。

 今、俺の手の中にあるのは、2年S組のみんなの力で編まれた、みんなの想いがこもった《2年S組の剣おたまブレード》なのだから――!


 いったいこれで、どうやったら負けられるって言うんだ?


「そんな、だって10000倍もブーストしてるのに、どうして――」

「なに言ってんだ。たかが10000倍だろ?」


「――ぇ? ど、どういう意味かな?」


 俺の言葉に鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしたケンセー。

 動揺しているのだろう、流星雨のごとく降り注いでいた《炎苦屠ほくと万裂脚まんれつきゃく》のスピードがほんのわずかに鈍くなっていた。


「言葉どおりの意味だよ。たかが10000倍しただけのA級チートで、『最強』の装備で身を固めた俺に勝てるなんざ、まさか思ってなかったよな?」


 《炎苦屠ほくと万裂脚まんれつきゃく》が威力をわずかに落とした隙をついて、俺はついに一歩を踏み込んだ。


「たかがって――だって10000倍だよ!? こんな痛くてしんどい思いをして使ってるのに――」


「わかってねぇな? そんなもん、俺からしてみればたかがなんだよ。チートは全部で13万5000もあるってのに、痛くてしんどいからって10000倍しかブーストしてないんだから!」


「ぁ――」


「その時点で! 全力を尽くそうとしなかった時点で! 気持ちで負けてた時点でお前は負けてたんだよケンセー!」


 俺の裂帛れっぱくの気迫に気圧され、


「ぅ――ぁ――」

 ケンセーが一歩、また一歩と後退しはじめた。


 均衡していた戦力の天秤が傾きはじめ、《2年S組の剣おたまブレード》が少しずつケンセーの身体をとらえだす。


「う……く……っ、あぐ……」


 そしていくつか立て続けにダメージを受け始るとすぐにケンセーの攻撃は止まってしまった。

 そのまま穴熊のように、今はもう必死に防御だけに徹しているケンセー。


「ほら、またそうやって弱腰になる」

「――ぅ」


「でもそうだよな、ケンセーの元になっている『可愛いは正義』は確かにS級チートだ。でもそれはラブコメ系のS級チートであって、決して戦闘が得意ってわけじゃあない。戦いのしんどさも、キツさも、痛さも、辛さも――ケンセー、お前は何にもわかっちゃいないんだ!」


「それは、だって――、でも私だって一生懸命――」


 やれやれ。

 今のケンセーはまるで《神焉竜しんえんりゅう》と戦って殺された後の俺を見ているようだぜ?

 悲しいかな、いったん逃げてしまうともう心が完全にビビッちまって、身体が言うことを聞いてくれなくなるんだよな。


 信念のない借り物の力チートが通用せずに絶望した俺には、


「――俺には今のケンセーの気持ちが、痛いほどに分かるんだ」


 もはや《炎苦屠ほくと万裂脚まんれつきゃく》は完全に見切られ、10000倍ブーストの大きな負荷によって力もスピードも失い、最後には戦う心までも弱ったケンセーは、いまや完全な死に体だった。


「さぁ終わりにしよう、ケンセー。夢の時間はもう終わりなんだ――おおおおおおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」

 ここ一番の猛然たる気合を込めた俺の神速の一薙ぎが、


「う、うわぁぁぁぁぁっっっっ!!」

 破れかぶれで放たれた《炎苦屠ほくと万裂脚まんれつきゃく》を軽々と粉砕すると、


 ズドン――!


 と振りぬかれようとして――しかしケンセーの身体を打つ直前にピタリと静止した。


「――とまぁこういうわけで、ほい、俺の勝ちだ」


 尻もちをついたケンセーに《2年S組の剣おたまブレード》を突き付けながら、俺はにっこりと笑って勝利を告げたのだった――。

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