第461話 雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ
雷鳴のように鋭く速い、10000倍ブーストされた『20世紀最後の暴君』によるミドルキック。
それを
空中でわずかに姿勢を制御し、最低限の受け身の態勢こそとったものの、もちろんそれくらいで威力と衝撃を完全に殺せるわけもなく――。
「く、ぁぐ――っ」
貫通するんじゃないかってくらい強烈に、体育館の壁にドン! と背中からたたきつけられた俺は、ボールが跳ね返るようにそのまま壁でバウンドすると、投げ出されるように床へと落ちて倒れ込んだ。
「いっ――つ……」
身体中に走る鋭い痛み。
それを懸命にこらえながら、どうにかこうにか四つん這いの姿勢まで身体を持ち上げた俺は、這いつくばった姿勢のままでケンセーを見上げた。
追撃が来る前に一刻も早く立ち上がらないと……くっ、いいとこに入った……胸を蹴られたせいで呼吸がキツい……酸素不足と痛みで身体が鈍い……身体が動かない……っ!
それら身体的なダメージに加えて、
「さっきの瞬間は『剣聖』が完全に後れを取っていた……まったく、10000倍ってのは伊達じゃねーな……」
『剣聖』が手も足も出ずに敗北したということが俺の心に重くのしかかっていた。
「あの強さはA級なんてもんじゃなかった。S級――いやもうこれはそれを通り越して限りなくSS級に近い強さだぞ……!」
それほどまでに今のケンセーは速くて強い――!
追撃を警戒しつつも動くことができず、現状把握に努めながら苦しい状況を突破せんと打開策を探ろうとしていた俺だったものの、
「一時的に動けなくなってる今は勝負を決める絶好のチャンスだってのに、なんで攻撃してこないんだ――?」
次なる攻撃は一向にやってはこなかったのだ。
代わりに降ってきたのはケンセーの勝ち誇った声だった。
「どーお、セーヤくん? 私、強いでしょう? ふふっ、さっきのとこれで一勝一敗、おあいこだね」
「こんにゃろ……そういうことかよ」
さっき自分がやられたことを、そっくりそのままやり返してみせたってわけか。
――ってことはだ。
「だったら俺もはいつくばったままでは、いられないよな……!」
俺はここ一番の気合を入れると、歯を食いしばって胸と背中の痛みに耐え、懸命に身体に酸素を送って無理やり身体を立ち上がらせてゆく――!
そしてその時に壁に手をつくことだけはしなかった。
さっきケンセーは壁に手をついて立ち上がったからな。
だから俺と『剣聖』は絶対に壁に手をつかない!
最強チートの意地とプライドにかけて――壁に手をつかずに俺は立つ!
子供のケンカみたいな意地の張り合いだと、馬鹿にしたければすればいい。
もちろん俺だって、気合とか根性だけを唯一至上のものとする、時代遅れの体育会系根性論は非合理的でナンセンスだと思ってる。
「――だけど! それでも最後はやっぱ気持ちなんだ! 気持ちでが負けたら、勝てるもんも勝てなくなるんだ!」
異世界転生した俺が『剣聖』と共に強敵たちと戦う中で学んだ、それが人間の真理なんだ――!
「雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ、だ。さすがは日本が誇る大文豪、宮沢賢治は良いこと言ったぜ!」
まぁできれば?
こんなしんどいことは学びたくはなかったんだけどな。
女の子の身体の柔らかさとかすべすべお肌とか、そういうのをもっといっぱい学びたかったです!
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