第453話 お別れ

「チートエネルギーで作ったチート剣――! うん、それは悪くないアイデアだ。でも、どうやればいいんだ? 俺にはミロノヴィーナスちゃんたちの力を束ねて剣を作るなんてこと、そのやり方すら分からないんだけど」


 今更だけどチートがなければ俺はただの一般人にすぎない。

 みんなの元気をちょっとずつ分けてもらって元気の玉を放つ有名漫画の主人公みたいな特殊能力は備わってはいないのだ。


「大丈夫、セーヤくんならやれるよ。だってセーヤくんは《草薙の剣くさなぎのつるぎ》の『固有神聖』《ヤマタノオロチ》で、《神滅覇王しんめつはおう》の力をいろんな形に変えてきたでしょ。黄金剣だったり、黄金の矢だったり、バリアだったり色んな武器を創造してきたじゃない」


「でもあれは《草薙の剣くさなぎのつるぎ》の力であって俺の力じゃ――」


「考えてみて。ここはセーヤくんの意識世界なんだよ? そして私たちチートはセーヤくんのためにあるんだもの。だったら可能性は無限大、この世界で私たちとセーヤくんにできないことなんてないんだから!」


 俺ならできると、心を籠めて一生懸命に語ってみせるミロノヴィーナスちゃん。

 手をぎゅっと両手で包み込まれながら、そんな風に期待と信頼で背中を押すようなことを言われたらさ?


「ああ、そうだな! なんだか、やってやれなくはない気がしてきたぞ……!」

「がんば、セーヤくん!」


 根拠なんてあるわけない。

 だけど女の子に褒められて背中を押されたらノーとは言えない、男の子ってのはどこまでも単純な生き物なのだ!


 ――おっと「やれそう」って言っても「全裸でぎゅっとしてくれるからえっちやれそう」って意味じゃないからね?

 今は超真面目なシーンだからね?

 いくら俺でもさすがにちょっとくらいしか思わなかったからね?


「私は――ううん、私たちは今から元のエネルギー体に戻るから、セーヤくんの中で、私たちを束ねて戦うための形にしてみせて。大事なのはできるっていうイメージだよ!」

「できるイメージ――」

「うん、例えば《精霊神竜》と戦った時に、《神焉竜しんえんりゅう》の黒粒子を自分の力として操った時のように――!」


 そう言ったミロノヴィーナスちゃんの後ろには、いつの間にか2年S組のチートっ子たちがズラァ――ッ!と勢ぞろいしていた。


「セーヤくん、チート学園で一緒に過ごせてとっても楽しかったよ」

「うん、俺もだ。楽しい時間をありがとな、リューガン」


「私もすごく楽しかった!」

「私も私も!」

「セナちゃん、シャンハイちゃん……」


「あ、私もだよー!」

「ブブカは楽しみすぎてむしろ迷惑かけてたでしょ、ちゃんと反省しなさいよね」

「エアウォークこそすぐ熱くなっていっつもセーヤくんに迷惑かけてたじゃん」

「う”っ」


「あはは、二人はほんと仲良しだね」

「「どこが!?」」

 見事にハモるブブカちゃんとエアウォークちゃんだった。


「ううっ、いつもバナナの皮で滑ってこけちゃう私を助けてくれてありがとうございました。セーヤさんとお別れ、寂しいです、ぐすっ……」

「ほら泣かないの。ここはみんなでセーヤくんの力になってあげる熱いシーンなんだから。ほら、前を向いてセーヤくんの顔をしっかりと目に焼き付けておかないと」


「……テンシさん、うん、そうですね……テンシさんもいつも優しく励ましてくれてありがとうございました……」


「ナゼカソコニアルバナナノカワちゃんもテンシちゃんも、一緒に過ごせて本当に楽しかったよ」


「セーヤくん、私たちのこと忘れないでよね! じゃあね、バイビー!」

「ああ絶対に忘れないよ、ネイマール・チャレンジちゃん」


 なんてお別れの言葉を次々とかわしながら、2年S組のみんなは俺の方を期待のこもったキラキラした眼差しで見つめてくるのだ――!

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