第448話 セーヤくんの隣にいる特別なチート

「は? なんだそりゃ? なんでケンセーがそんなことできるんだよ?」

 思わずツッコんだ俺に、


「ふっふーん、チートの世界は上意下達じょういかたつでしょ?」

 答えるケンセーはどや顔だ。


「そしてこの数か月で私は『セーヤくんの隣にいる特別なチート』って最上のステータスを得たんだよね。だから他のチートたちは最上位である私の意思に従うんだ――!」


「なにィ……っ! くっ!」

 ケンセーの強烈なハイキックを左腕でガードしたものの、衝撃でガードした腕の骨がミシミシと嫌な音を立てる。


 痛ってぇっ!?

 なんつーパワーだ!?


「ふっふーん、他のチートのエネルギーで『20世紀最後の暴君』と私自身をブーストしてるんだよ。A級相手だと思ってると痛い目見ちゃうよ?」


「こんにゃろ……!」


 ここまで一撃が重いとガードはダメだな。

 下手に受けてしまうと一瞬、身体が浮いて次の動作に移れない。

 なるべくかわしていかないと――!


「それにセーヤくんももう気づいてるよね? 今もほら、2年S組のチートっ子たちはセーヤくんを助けたりせず、黙って見てるだけでしょ?」

「やっぱそういうことかよ……っ!」


 俺とケンセーは2年S組のみんなと楽しく、体育館でスポーツチャンバラ大会の真っ最中だった。

 当然のことながら俺とケンセーの一連のやり取りは、みんなの見ている中での出来事だ。

 そもそもが衆人環視でみんなの目がある中で、ケンセーが犯人であることを暴くのが俺の目的だったからな。


 だって言うのに、今も2年S組のチートっ子たちは金縛りにあったようにピクリとも動かないのだ。


「最初はみんな成り行きを見守ってるのかなって思ってたんだけど、ずっと見ているままだったからな。変だなとは思ってたんだ……!」


 まっすぐな性格のミロノヴィーナスちゃんなら、

「ちょっとケンセー!」

 とか言って、めちゃくちゃ言ってるケンセーに速攻で詰め寄ってるだろうし。

 

 ずっと静かでなんでかなと思ったら、ケンセーが命令して無理やり抑え込んでいたのかよ。


「――でもま、それでも完全に自由にできるってわけじゃないみたいだな? S級チートは動けないようにするので精一杯ってところか?」


 2年S組のチートっ子たちは動けないだけで、ケンセーに力を貸しているようには見えない。

 そしてケンセーの使っている『20世紀最後の暴君』もA級チートだ。

 そこから導かれる推測は――、


「S級チートは――特に自我を持ったS級チートは簡単には言うこと聞かせられないんだろ?」


「ふぅ……、やる気になった時のセーヤくんはほんと頭が回るよね。『剣聖』の補助効果で思考が研ぎ澄まされるのもあるのかな? 普段はおっぱいしか見てないのにね。そのギャップも素敵なんだけど、えへっ」


 えーと、今のは褒められたのかな……??


「あーあ、ほんと『剣聖』は私の邪魔ばっかりするよね。セーヤくんの中に『剣聖』さえいなければ、さっきだってA級チート『剣豪』あたりで上手くごまかせたはずなのに」


「そうか、ケンセーはA級チート『剣豪』なら使えたのか――ん? ならなんで使わなかったんだ?」


 もし『剣豪』を『剣聖』であるかのように使われていたら、俺の目論見は完全にご破算だったのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る