第442話 打つ手なし

「ふっふーん! そういうこと! 大せーかい! やっと分かってくれましたか。つまりセーヤくんがマスターとして無理やり言うこと聞かせようとしても、私だけは無理なのですよ」


「く……っ!」


 でもそういうことなら俺は完全に詰みだぞ?


 交渉は互いに平行線で決裂した。

 妥協点はなく、どちらかが譲らない限り解決しない。

 そしてお互いに折れる気はないのだから。


 導き出される結論は現状維持だ。

 それはチート学園を続けると言うことであり、つまりケンセーの実質勝利に他ならない――。


 さらに時を重ねるほど、チートと一体化しつつある俺は「ただちに影響はない」状態から危険な状態へとシフトしていくことだろう。


 くそっ、ケンセーの正体をズバリ暴いて見事完全勝利のはずだったのに、逆に俺の方が完全にお手上げ状態になるなんてな。


 ってそうだ、現実世界にある俺の身体は大丈夫なんだろうか?

 ここと向こうじゃ時間の流れが大きく違ってるらしいから、実際の時間経過は数日ほどみたいだけど、俺ってその間ずっと寝たきりだよな?


 栄養失調くらいで済めばいいんだけど……。

 いろいろ頼むぞウヅキ、巫女エルフちゃん……!


 でも真面目な話、どうする?

 どうすればこの打つ手なしの状況を打開できる?


 ある程度チート学園で過ごして満足したら、ケンセーが心変わりしてくれたりはしないだろうか?

 ――いや、ないな。

 それならもう今の段階で少しくらい満足した素振りを見せてもいいはずだ。


「けど到底、満足してるようには見えなかったよな……」


 俺のことを好き好き大好き言っていた時のケンセーのかなり入れ込んでる感じは、正直ちょっと引いちゃったくらいだ。

 それだけ俺のことを好いてくれてるんだろうけど、つまりそれは翻意ほんいさせるのも難しいというわけで。


「どうすればいい、どうすれば――」


 俺が逆転の一手を探すべく、あれこれ必死に考えを巡らせていると、


「ねぇセーヤくん。私はセーヤくんに嫌われたくはないんだ。せっかくセーヤくんがチート学園を続けてくれても、セーヤくんと一緒に楽しめなかった何の意味もないし? だからいっそのこと、今から白黒はっきりつけちゃおうよ?」


 言ってケンセーは、シャドーボクシングのようにシュッシュッとパンチをするポーズをしてみせた。


「……まさか俺と戦おうってのか?」


「そのまさかだよ? どっちが上か戦ってはっきりさせれば、セーヤくんも割り切れるんじゃないかなって。わたし的には、最初の一歩さえ割り切っちゃえば、チート学園でのいちゃいちゃえっちな淫蕩いんとう生活にセーヤくんはコロッと流されるんじゃないかなって思うんだけど」


「そんなことはない……と思うぞ……多分……きっと」


 くっ、事ここに至って「100%ない」と言い切れない自分が憎い……!


「なはは、セーヤくんはウソがつけないタイプだよね。自分に正直って言うか、えっちな欲望に対して正直って言うか」


 そんなの当たり前じゃん!

 だって童貞なんだもん!

 えっちなことに、とってもとっても興味津々なんだもん!


「じゃあ決まりだね?」


 ――なんだ、ケンセーのこの不自然なまでの余裕っぷりは?

 さっきからやけに戦いに自信があるみたいだな?

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