第441話 ヤンデレ?

「おお、やっと分かってくれたか」

「うん、よーくわかったよ」


 よかった。

 ま、なんだかんだでケンセーも俺のことが大好きなんだもんな。

 俺が一生懸命お願いすれば、こうやってちゃんと聞き入れてくれるのだ。


 まったくケンセーは俺を困らせたがりのいけない子なんだから。

 ふふっ、可愛いやつめ。


「ほっ……じゃあ早速、現実世界に帰ろう――」


「本当はしたくなかったけど、仕方ないよね」

「え? あ、うん、分かってくれて嬉しいよ――」


「じゃあまずはセーヤくんを軽く痛めつけるね。これは反抗できないようにするためです」

「え? なんだって?」


「なにって、ゆーこと聞かないセーヤくんにちょっとしつけをするの。教育的指導というやつです」

「学園だけに教育的指導ってか? ははは、上手いこと言ったな――じゃなくてしつけってどういう意味だよ」


 ケンセーが俺をしつける? 痛めつける? だって?


「文字通り、セーヤくんを力でねじ伏せて言うことを聞かせるの。だってセーヤくん、言うこと聞かない私とは今までみたいに仲良くしてくれないよね?」


「ケンセーが原因で現実世界に帰れなくなったら、そりゃ今まで通りの関係はちょっと難しいだろ……」


「それは嫌なんだもん。ぜんぜん意味ないんだもん。楽しくないとだめなんだもん。だからセーヤくんには力ずくで言うこと聞いてもらうの」


 「当然でしょ?」みたいな顔をして言うケンセーだけど、力ずくで俺に言うことを聞かせてケンセーは楽しめるのか……?

 なんだか思考がヤンデレっぽい気がしなくもないぞ……?


「でもちょっと待ってくれよ。そもそもチートたちはみんな、マスターである俺の言うことを何でも聞いてくれるんじゃなかったっけ?」


 チートの世界は上意下達じょういかたつ

 マスターである俺の意見が優先されるんだよな?


「うん、そうだよ」

「なら争う必要はないな。俺の言うことを聞いてくれケンセー。俺はウヅキたちのところに帰らないといけないんだ。悪いがこれはお願いじゃない、マスターとしての命令だ」


 上から一方的に命令して強制するのは好きじゃないんだけれど、分かりあえない以上、四の五の言ってはいられない。

 マスターとしての権限をここで行使させてもらうぞ。


 そういうわけで、これにて一件落着――のはずだったんだけど、


「うーん、みんなはそうなんだけどね? 私はちょっと、みんなとは違うんだよね」

「……どういう意味だよ? 俺の言葉をチートは聞かざるをえないって言ったのはケンセーだろ?」


「確かに言ったけど、でも私はこうも言ったよね? 『可愛いは正義』は唯一セーヤくんに使われない――セーヤくんが使えないチートだって」


「ああ、一人だけけ者にされたのが悲しかったんだよな?」


「それってね、裏を返せば私『可愛いは正義』だけはセーヤくんの支配下にない――つまりセーヤくんの命令に従わなくてもいい例外的なチートっ子ってことでもあるんだよ」


「――っ!」

 やられた、そういうことか――!


け者にされたがゆえに、ケンセー=『可愛いは正義』だけは俺の影響下にないんだ……!」

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