第433話 友達以上恋人未満

「なぁ、一つ疑問なんだけどさ? 運動が苦手なら、よりにもよって戦闘特化した最強チートの『剣聖』に化けなくても、もっと他の擬人化していないチートがいくらでもあったんじゃないのか?」


 そんな俺の疑問に、


「そこはそれ、セーヤくんが最も信頼している『剣聖』になりたかったっていう私の個人的な願望かな。私はね、セーヤくんの一番になってみたかったんだ」


 なんてことを、ケンセーは俺の目を見つめながら言ってくるのだ……!


「お、おいケンセー……面と向かってそういうこと言うなよな……」

 ラブコメの告白シーンみたいで、めちゃんこ恥ずかしいじゃないか。


「それにね、元々は壊れたチートが修復・回復するまでの間だけの予定だったから、どうとでもごまかせるはずだったんだよね」


「それなんだけどさ、なんで途中で嘘をついたんだ? どうして途中から俺を裏切るような真似をしたんだ? この世界にどっぷりつかってた俺に、最初にこの世界が俺の意識世界だってわざわざ教えてくれたのは、他でもないケンセーだったじゃないか? なのになんで――」


「そんなの決まってるじゃない。セーヤくんにはわからないの?」

 ええぇぇっ? って感じ絵大げさに煽り顔をしてくるケンセー。


「――って言われてもな。最初は味方で途中から裏切ったってことは……何かが原因で俺が嫌いになった、ってことだよな?」


 最初は友好的な関係だったのに、いつの間にか知らないうちに敵対するようになっていたのだ。

 となれば導き出される結論は、つまりはそういうことだろう。


 俺としてはケンセーとは友達以上恋人未満のくすぐったい関係――いつ一歩進んでもおかしくないこそばゆい青春関係――を築いていたと思っていただけに、


「実はケンセーに嫌われてたってのはショックだし、すごく悔しいな……」


 何より嫌われる原因について思い当たるふしが全くないんだ。

 しいて言うなら他のチートっ子といろいろ親密になったり、次々とえっちなハプニングをやらかしたくらいで――あ、もしかしてそれ?


 だってチートっ子ってばみんな可愛い子ばかりなのにさ?

 俺のことめっちゃ好き好きしてくれるんだよ?

 つい楽しくって嬉しくって……。


 俺はケンセーが心変わりする超致命的な原因に思い至ったんだけれど、


「ぶっぶー、ゼロ点、不正解。まったくもう、私がセーヤくんを嫌いになるわけないじゃん?」


 ケンセーの答えは意外なものだった。


「えっと、そうなのか? でもそれじゃあなんで――」


「あぁもう。いつもはすぐちょーしに乗って『おまえって俺のこと好きなんだろ?』とか言って斜め上の勘違いしてくるくせに、変なところで鈍感なんだから……ばかセーヤくん……」


「やめて! 死ぬほど恥ずかしい過去を無造作に掘り返すのはやめて!」


 この世界が俺の意識の中の世界だと、ケンセーが俺に教えてくれた時のことだ。

 なるべく思い出さないようにしてたってのに、よりにもよって『アレ』を蒸し返すなんてひどいやい!


「あれはあれで可愛かったけどね。セーヤくん自信満々のどや顔――からの耳まで真っ赤にしながら、さも何事もなかったかのようにさらっと流そうとしたところとか、母性本能がわさわさってくすぐられて胸がキューンとしたもん」


「わかった、わかったから、もうその話はよすんだ……俺のライフはもうゼロよ……」


 あわれ、涙声でケンセーに泣きつく俺だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る