第338話 えっへんティモテ(得意顔)

「昨晩のお風呂に続いて、今日も朝からこのような非礼を……! 大変申し訳ありませんでした!」


 ガバっと、大袈裟なくらいに頭を下げて謝ってくるティモテだけれど――、


「うーんと、謝るのはむしろ勝手に部屋に入って裸を見ちゃった俺の方というか。返事がなかったから何かあったのかなって早とちりしちゃってさ。大切な朝のお祈りを邪魔しちゃってごめんな」


 俺が裸を見ちゃったっていうのに、当の見られたティモテからごめんなさいされるのは、さすがにあべこべというものだろう。


「いえ、お見苦しいものを見せてしまい本当に申し訳ありません。その、いいわけと申しますか、教義にあるわけではありませんが、伝統的に敬虔な信者は皆、朝起きて最初に聖母マリアにお祈りをするんです」


「そうなんだ。偉いなぁ……」


「そして私は冬場以外は全裸で寝ています」


「そ、そうなんだ……」

 エロいなぁと言いかけて、ギリギリで踏みとどまった自分を褒めてあげたい。


「友人から健康にいいと聞いて始めたんですが、もうかれこれ7年になるでしょうか、なんとそれ以来、風邪をひいたことすらないんですよ」


 プチ自慢ってやつなのか、得意顔なえっへんティモテ。

 うわっ、なにこれすごく可愛い。


「そっか、ティモテは夜は健康全裸系シスターなんだな……」


「そういうわけでして、私は朝起きて最初に全裸でお祈りをしていたというわけなんです」


「そ、そうなんだ……?」


 筋が通っているような、それ以前にそもそも根本的におかしいような……?? 


「えーと、朝イチでお祈りするのが一般的だとしても、服くらい着てもいいのでは?」


 マリアは寛容で有名な『慈愛の聖母』なんだろ?

 服を着ることくらいノータイムで許してくれるんじゃないか?


「まぁティモテは次期教皇候補にもなるくらいの、プロ中のプロ聖職者だからな……ド素人の俺の思い付きを、あまり言うのはよくないか――」


「言われてみれば確かにそうですね。服を着るくらいは問題なさそうです。これは意外な盲点でした。鋭い指摘ですねマナシロさん。やはり人生とは、日々の勉強の積み重ねですね」


 ティモテが真剣な顔をして、ふんふんとうなずいていた。


「え、あ、うん……?」

 鋭い……かった……だろうか……?


 やはりティモテはウヅキをも超える、超が付くほどの天然さんみたいだな。


 でもまぁあれだね。

 つまりまとめると、ティモテが襲われたとかじゃなくてよかったよ、うん!


 オッケー、世はなべて事もなし。


 今回の一件はオールセーフ――、


「それで、マナシロ様はいつまで裸のティモテさんをガン見しておられるのでしょうか?」


 その言葉とともに。


 後ろから、肩に、手を、置かれました。

 グワシッ! っという、感じです。


 がっちりと、逃がさないよう、ホールドされて、います。


 内心震えあがってしまって、思わずハヅキっぽくカタコトになっちゃいました。


 だってこの声ってば――、


「おはようございます、マナシロ様。朝日の眩しい爽快な朝ですね」

 トラヴィス家が誇る筆頭格メイド、敏腕で凄腕な――、


「……ク、クリスさん」

 だったのだから――。

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