第168話 不肖アリッサ・コーエン、微力ながら尽力いたします!

「チートがほんのわずかとはいえ代償を必要としているのはアリッサ、当然君も知っているね?」

「それはもちろん、チートのいろはの『い』ですから」


 チートというのはほんのわずか、ほとんど気にならないレベルとはいえ、使用者に代償を要求する。


「そして彼は様々なチートをこれでもかと好き放題ってくらいに多用しつつ、さらには《神滅覇王しんめつはおう》を2度も顕現させることに成功した」


「すごいですよね! 私も驚きを禁じ得ません!」


「まぁそうなんだけどね……。ところで、一般的に男性は三大欲求とも言われ無限に湧き出る『性欲』を代償としてチートを使用することが多い。であればだ。つまり彼は異世界への情熱ではなく――端的に言えば麻奈志漏まなしろ誠也はエロいだけではないかと――」


「そんなことはありません!」


 キリッ!


 私は本部長の言葉をすかさず、そして明確に否定した。


 さすがに失礼かなとも思ったんだけれど、麻奈志漏まなしろさんの名誉のためにも、私はここで意見を言わなければいけないと、そう強く確信したからだ。


「そんなことはありません、それは実際に麻奈志漏まなしろさんと対話した私が、確信を持って断言できます。麻奈志漏まなしろさんは、私が今まで出会った誰よりも紳士的で素敵で人間的に優れた――言ってみれば『男の中の男』でしたから!」


 あの時の麻奈志漏まなしろさんの目の輝きは、今でも忘れることはありません。

 澄んだ青空のような、無邪気な子供の心のような、新しい異世界に思いをはせるけがれなき瞳を、私はきっと一生忘れることはないでしょう。


 いつかは麻奈志漏まなしろさんのような素敵な男性と出会い、結婚して幸せな明るい家庭を築きたいものです。

 白い一軒家を買って、子供はオーソドックスに一姫二太郎いちひめにたろう、あと犬も飼いたいですね……。


 仕事中にもかかわらず、思わずうっとりと甘くてシュガーな未来予想図を描いてしまった私でした。


「そ、そうか。うん、そうだね。悪かった、今の発言は聞かなかったことにしてほしい」

 私の熱意に押されたのか、本部長が冷や汗を垂らしながら言った。


「い、いえ! 私のほうこそ申し訳ありませんでした! つい熱くなって、本部長に対してずいぶんと生意気な口を……」


「いやいや、いいんだアリッサ。私はね、麻奈志漏まなしろ誠也の素質を見抜き、《神滅覇王しんめつはおう》を顕現させるための最良のお膳立てをしてみせた君の慧眼けいがんを、誰よりも高く評価しているのだから」


「こ、これ以上ないお言葉、ありがとうございます!」

 これは今まで以上に頑張らないといけません……!


「そうそう。今回の一件で、追って臨時ボーナスが支給されるので楽しみにしておきたまえ」

「臨時ボーナス! あ、ありがとうございます!」


 ただし――と、そう前置きをして本部長は続けた。


「今回の件は想像をはるかに超えた、ある意味衝撃的な結果だった。2度も顕現したということは裏を返せば、アガニロムという異世界がそれだけ危険な異世界であることの証でもあるからだ」


「――!」


「なにせこの状況というのはだ。異世界転生局が付与した――S級チート以下、全チートを付与したにもかかわらず、それだけでは抗しきれない状況にごく短期間で2度も陥ったということに他ならない」


「――――!!」


「今後はより慎重な対応が求められることになるだろう。これからは今まで以上に、麻奈志漏まなしろ誠也という人間を知り尽くした君の力に頼る場面が出てくるはずだ。その時はアリッサ、どうかその力を惜しみなく発揮してほしい」


「それはもちろんです!」


「アガニロムへの道をこじ開け、《神滅覇王しんめつはおう》を顕現させる一助となった君の洞察力・判断力には、我々上層部一同、大いに期待している。これからも職務にまい進してくれたまえ」


「身に余るお言葉をいただき、ありがとうございます! 不肖アリッサ・コーエン、微力ながら尽力いたします!」

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