第153話 集う仲間たち 2 「え!? なんだって!!??」

「えっと、人違いじゃないですか? 俺はお姉さんとは会ったことないと思うんですけど……」

 俺はやや困惑気味にそう答えた、答えるしか無かったんだけど――、


「なんと! 主様ぬしさまに忘れられて、わらわは悲しいぞ。よよよ……」

 って言われてもさ。

 はっきり言って全く記憶にないんだからどうしようもない。


「こんな美人のお姉さんと知り合いなら、忘れるなんてことは絶対にないはずんだけど……うーむ、どこかで会ったっけか……?」

 なんとなく、その印象的な黒髪の色合いに既視感がなくもない、ような、そうでもないような……?


 そんな謎のお姉さんはというと、美人なだけでなくスタイルも抜群だった。

 豊満な身体がまとうのは、短く膝丈に大胆アレンジされた和服だ。

 髪の色と合わせたような美しい黒地に、真紅の牡丹の大輪があざやかに舞っていた。


 さらにそれをお洒落に着崩していて、肩が派手に露出しているわ、おっぱいが谷間しているわの上に、太ももがかなり際どくチラリズムしているのだ。

 つまり、えっちなお姉さんすぎて、


「くっ、だめだ……! 俺はちゃんと思い出そうとしているのに、それよりも先に意識の全てが視覚情報に集約されてしまって、ガン見してしまう……素敵すぎる魅惑の肌色から目が離せない……っ!」


 ……でもさ?

 このお姉さんを見て何も思わない男がいたら、そいつは絶対にどこかおかしいよ?(意訳:だから俺は悪くない)


「ふぅむ。そうか、この姿では分からんか。ならば、ほれ、これならどうじゃ?」


 ――瞬間。

 知覚系S級チート『龍眼』が、猛烈な危険シグナルを発した!

 さらに日本刀クサナギを抜いていないにもかかわらず、戦闘系S級チート『剣聖』が戦闘モードへと強制的に移行する!


 俺はサーシャとクリスさんを両脇に抱えると、一足飛いっそくとびにその場から飛び退すさった――!

 わずかに遅れて、シロガネも慌てたように距離を取る。


 俺とシロガネがこうまで慌てたのも、無理はないことだった。

 その禍々しい気配は、凶悪な殺気は――忘れもしない。


 全チートフル装備で無敵転生したはずの俺をいとも簡単に殺してみせた、それは最強最悪の暴君、神話に終焉おわりをもたらした竜の王――!

 そう、こいつは――!


「《神焉竜しんえんりゅう》アレキサンドライト――!!」


 喉がひりつくような、恐怖と隣りあわせの緊張感。


「大丈夫だよ、心配しないで」

 殺気をもろに受けて腕の中で震えてしまったサーシャを、


「あ……っ」

 安心させるようにグッと強く引き寄せた。


 そうは言ったものの、マズいな……。

 今、すぐ傍にはサーシャとクリスさんがいる。


 それ以前にここは帝都の最外縁部=外市街そとしがいとは言え、もう帝都の中なのだ。

 一般人だっている……くっ、どうする!?


 息をのむピリピリとした緊迫ムードは、しかし――、


「やれやれ、やっと主様ぬしさまにもわらわが誰なのか分かってもらえたみたいじゃの」

 一瞬にして霧散した殺気の後を追うようにして、春先の淡雪あわゆきのごとくさらっと消えてなくなったのだった。


主様ぬしさま? そんなに怖い顔をして、一体どうしたのじゃ? 主様ぬしさまがそのような顔をしていると、わらわは悲しいぞよ」


 殊勝な態度でそう言われ、加えてパタッと殺気がなくなったとはいえ、


「いやどうしたもこうしたも、《神焉竜しんえんりゅう》を相手に怖い顔するなって方が無理だろ――」

 ひりつくような緊迫感こそなくなったものの、だからと言って間違っても「はいそうですか」と警戒を緩められるような相手では決してない。


 油断が即座に命取りになることは、こいつに一度殺された俺が一番よく分かっている……!


 《神焉竜しんえんりゅう》と街中で鉢合わせたという状況が、意味不明な上に最悪なんだ。

 ここから先はわずかなミスすら許されないぞ……!


「おや、そういうことかや。主様ぬしさまは少々、勘違いしておられるのじゃ。わらわは別に主様ぬしさまと戦うために来たわけではないのじゃ」


「……じゃあいったい何のために来たんだ? わざわざ帝都まで追いかけてきてよ? っていうかお前、住処に帰ったんじゃなかったのか? 《竜の渓谷ドラゴンズ・バレー》ってのがあるんだろ?」

 確かナイアが、そんなふうなことを言っていたはずだ。


「それがのぅ。超久しぶりの帰郷なんで、こっそり帰って皆を驚かせてやろうと思ったのじゃが……」

「……それで?」


「久方ぶりの故郷はどうなっておるかのーって、こっそり『龍眼』でのぞいてみたら、なんかの、わらわの没後何千年とかいう式典をやっておったのじゃ」

「……はい?」


「ほらわらわってば《王竜おうりゅう錫杖しゃくじょう》の中に、うん千年も閉じ込められておったじゃろ? その間ずっと音信不通じゃったから、死んだと思われたんじゃろうの。皆、しめやかな態度でわらわのことをしのんでおったわ」


「お、おう……そうか」

 なんだか話が変な方向に転がり出したような……?


「そんなところに死んだはずのわらわがひょっこり顔を出すのも、あまりに空気読めてないK  Yじゃろ? それであのディリンデンとか言う、主様ぬしさまと出会った街に戻ったのじゃが、どうやら主様ぬしさまはどこぞに出かけておる様子だったでの」


「ああまぁ、ちょっと野暮用でな。いや待て、そもそもの話として、なんでお前が俺のところに来るんだよ?」

「それはもちろん、主様ぬしさまのところにやっかいになろうと思ったのじゃが――」


「え!? なんだって!!??」


 俺は因果関係を断絶するディスペル系S級チート『え? なんだって?』を全力でもってぶっ放した。

 それはもう世界の全てを否定するかのごとく、腹の底から全ての力を振り絞って、


「お願いだから、そういう無茶ぶりはやめて!」


 って気持ちを全身全霊を込めて声の限りに思いっきり叫んだのだった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る