第118話 そこにひよこがいるから
とまぁ、そんな感じで、きゃっきゃうふふで始まったひよこ鑑定ではあったものの、
「…………(黙々と仕分け中)」
「…………(営々と仕分け中)」
「…………(黙然と仕分け中)」
「…………(粛々と仕分け中)」
これだけ高い時間給を貰う以上、これ以上ないってくらいに真面目に働くのが俺に課せられた使命なわけで。
そうなると当然、元気っ子メイドさんのミリアちゃんと特にえっちなイベントがあるわけもなく。
ただひたすらに無心で、俺はひよこたちを雌と雄に分けていった。
そんな俺が仕事に集中できるようにと、ミリアちゃんも縁の下の力持ちって感じで、せっせとケージを運び続けてくれて。
さらに合間に水を持ってきては、
「はい、どうぞ!」
そう言ってコップを俺の口元に寄せると、俺が飲むスピードに合わせて上手に飲ませてくれるのだ。
「はい、上手に飲めましたね!」
とか満面の笑みで言われた時には、同い年のハズなのにちょっとバブみ感があって、あやうくママンの引力に惹かれてオギャり沼に堕ちるとこだったわ……。
しかしなにより驚かされたのは、俺に付き合ってミリアちゃんが24時間ぶっつづけで働いていたことだった。
「本当は別の子に交代する予定だったんですけど、マナシロさんも慣れた相手の方がやりやすいかなと思ったので。でも安心してください、こう見えて私ってば体育会系なので、体力には自信ありです!」
なんて力こぶ作ってみせながら、にぱっと笑って言ってくるんだぜ?
こんなの可愛いすぎて、思わず甘えたくなって当然じゃないか!
ウヅキも似たタイプの女の子だけど、俺はえっちなお姉さんと同じくらいに、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる甘やかし系女の子が好きなのだ。
早くに両親を亡くして母親の記憶がほとんどないってのもあるかもなんだけど、俺は女の子にだだ甘にされちゃうと、胸がきゅんとしちゃうんだよ!
悪い!?
っていうかそもそも、尽くすタイプの献身的な女の子が嫌いな男なんてこの世にいるの?
とまぁ一息つくがてら、心に潤いを与えたところで、
「ふぅ、仕事しよ……」
…………
……
そうしてライン工のごとくひたすら仕分けを繰り返す中で、いつのまにやら時は過ぎ。
働き始めてから丸一日近くを経て、
「これで、終わりだ――!」
その言葉とともに、俺は人差し指と中指を閉じたいわゆる「閉じピース」で、伸ばした右手を左から右にシュッと一閃。
――もちろん何か意味があるわけではない。
単にカッコいいポーズを決めたかったというだけの、気分の問題である。
だって今、俺は!
丸一日かけて、4万羽以上いる全てのひよこたちを無事に仕分けし終えたのだから――!
「お疲れ様でした!」
最後のケージを片付け中のミリアちゃんから、元気な声が飛んでくる。
自分だって疲れているだろうに、そんなことを全く俺に感じさせないその声が、耳に心に染みわたる。
「ミリアちゃんもお疲れさまだよ。長い時間手伝ってくれてありがとね」
「そんな! 一番大変だったのがマナシロさんなのは、近くで見ていた私が一番知ってますから!」
片づけを終えて、とてとて小走りで走り寄ってくるミリアちゃんだったんだけど――、
「ミリアちゃん、足下にひよこが! 危ない――!」
「きゃわっ!?」
ミリアちゃんのちょうど足下にひよこが一羽、ぴよぴよしていたのだ。
「な、なんでこんなところにひよこが!?」
突如現れたひよこをかわそうとして、盛大にバランスを崩すミリアちゃん。
普段なら問題なくかわせたはずだった。
しかし今のミリアちゃんは徹夜労働明けであり、その身体には普段のキレが全くなかったのだ。
そして気が付くとラブコメ系S級チート『なぜかそこにいるひよこ』が発動していた。
「く……っ!」
突っ込んだら負けだぞ、ここは耐えるんだ!
落ち着いて、迅速に次の行動をとるんだ……って耐えられるわけあるかい!
「ラブコメ系S級チート『なぜかそこにあるバナナの皮』と何が違うんだよこの野郎! そこにひよこがいるわけねーだろ! 何が13万5千のチートだ! 露骨な水増ししてんじゃねーぞ!」
叫びながらも、すでに俺の身体はミリアちゃんを助けに向かっていた。
「おりゃあっ!」
掛け声一閃。
俺は一気に飛び込むと、ミリアちゃんの腰に右腕を回して自分の身体へと半ば強引に引き寄せながら、バランスを崩していたミリアちゃんの身体を安定させる。
同時に俺の身体をミリアちゃんに預けるようにくっつけて、助けに入った勢いそのまま足下のひよこから一気に離脱したのだった。
もちろんひよこを優先してミリアちゃんに怪我をさせる、なんてのはもってのほかだ。
ひよこから距離をとったことで、今度はすぐそこの壁に当たりそうになってしまうものの――、
「は――っ!」
俺はミリアちゃんの腰に回した右腕に力を入れるとさらにきゅっと引き寄せつつ、左腕はミリアちゃんの後頭部を打ちつけないようにと手を回して抱きかかえ、これにて準備は万端。
そしてそのまま壁にぶつかる――というかこの時点で勢いはもうしっかりと殺してて、ほんと軽く壁に接触しただけだったのだが、
ドン!
と存外に大きな音が鳴ってしまった。
「これはまさか――!」
ラブコメ系A級チート『壁ドン』が、さらに連鎖して発動したのだ!
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