第84話 管理ナンバー000000000666異世界《アガニロム》

「まぁ知らなくても無理はない。むしろ知っていたら、私は今すぐに君を拘束して緊急の特別高等査問委員会を開かねばならなくなってしまう。管理ナンバー000000000666異世界《アガニロム》は、一般には伏せられた特殊な異世界だからね」


僭越せんえつながら、確か000666異世界は可愛い動物でいっぱいのメルヘン系の異世界だったと記憶しておりますが……」

 私もいつか行ってみたいと思った、とってもファンシーでピースフルな異世界だ。


「ちがうちがう、そこじゃない。《アガニロム》は『000000』の『000666』だ。隠しナンバーによって管理されていて、ごく一部の人間しか知りえない、完全に情報が隔離された異世界なのさ」


「そんなものが……、にわかには信じられません」


 情報公開法の適用範囲外?

 国家機密?

 いわゆる『特定秘密』ということなのだろうか?


「まぁそうだろうね。おっと言い忘れていたけど、この話は間違っても外でしちゃあいけないよ? 場合によっては機密漏えいで20年刑務所に入ることになる」


「にじゅう……りょ、了解いたしました。肝に銘じておきます」

 私は冷や汗を垂らしながら答えた。


 だって20年の刑務所生活なんて、万が一にでもそんなことになってしまったら私の人生は終わったも同然だ。


 偉い人も普通の人も、人生は等しく一度きり。

 だったら他人がどう思ってもいい、私は自分が納得できる人生を送りたい。


「ところでなぜその世界に異世界転生させたことで、私はこのように、その、褒められることになったのでしょうか?」


 まったくもって意味が解らない。

 どうも単に珍しいから、というわけでは無さそうだけど……。


「それはね、《アガニロム》は異世界転生局が全く手を出せない、最強最悪の異世界だからだ」


「――え?」


「どこから説明したものかな? そうだね、S級チートが最強なのはもちろん知っているね? 基本的にS級チートを付与しておけば、たいがいの異世界で無双することが可能となる。しかしそのS級さいきょうが最強たりえない、修羅の異世界が存在する」


「そんな、まさか――」

 S級チートは異世界転生局の技術の粋を凝らして作られ、幾度のアップグレードを経てわずかな問題点すら存在しない、文字通り「最強」の存在だ。

 なのに――、


「SS級と呼ばれるS級をはるかに超える上位チートが多数存在していて、非業の死を遂げた英雄たちが、もう一度の活躍の場を求めて転生すると言われる最高難度の異世界。それが管理ナンバー000000000666異世界《アガニロム》だ」


「英雄が転生する異世界って、なんですかそれ……!」

 だって、麻奈志漏まなしろさんはいたって普通の一般人で――!


「しかも、だ。ここ200年間は相応しいと思われた英雄であっても、誰一人として《アガニロム》に転生することができなかった。どうやればこの異世界に転生できるのか、検証すら許さない異質すぎる異世界――」


「――っ!」


「そしてその《アガニロム》への異世界転生を、初仕事でいきなり成し遂げたのが君というわけだ! いや、私も生きているうちにまさか《アガニロム》への転生を見られるとは、正直思ってもみなかったよ」


 はっはっはと、本部長は上機嫌に笑うんだけど――、


「じゃあつまり私は、麻奈志漏まなしろさんを、そんな大変な異世界に――」


 異世界転生への熱い想いを抱いていたあの人を、そんな修羅と悪魔の世界に送り込んでしまったなんて――!


 何も知らなかったとはいえ、

「私は、私はなんてことを――!」


「彼にはS級以下全てのチートを付与したみたいだね。普通はエラーが出てそんなことはできないはずなんだけれども。向こうの世界から何らかの干渉があったのか、それが通ってしまったということだけでも、《アガニロム》の異質さの傍証になるだろう」


「――――っ!」


「《アガニロム》では、おそらくS級チートを全部付与したとしても、何の保証にもなりはしない。万が一SSダブルエス級と遭遇してしまえば、S級じゃ格が1枚落ちるだけの文字通り格下だからね。運が悪ければ、明日にでも死んでしまうかもしれない」


「そ、そんな――! なんとか、なんとかできないんですか!? 麻奈志漏まなしろさんは、そんな世界でやっていけるような英雄なんかじゃありません! 誰よりも清らかで美しい心を持っている以外は、ただの普通の一般人なんです! なにか、なにか助ける方法はないんですか――!?」


 どうにか彼を助けたいという一心で、思わず腰を浮かせて前のめりになった私にかけられたのは、


「それは――あるよ。もちろんね。そしてそれこそが、今日ここに君を呼んだもう一つの理由でもある」


 これまた思いもよらない言葉だった。

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