異世界転生 4日目(前編)

第46話 ラブコメ系A級チート『二度寝』

 異世界転生して4日目の朝。


 昨日に続いて日常系A級チート『おはよう朝ごはん』の効果によって、もうすぐ最高の朝を迎えられる――はずの、そのちょっと前。


 なぜか俺は1回ハッと目が覚めてしまったのだった。


「あれ……? まだ起きる時間にはちょい早いんだけど……」

 外はまだ薄暗く、家の中も静まり返っている。


「よく分からんがまぁいいか……」

 思い直して再び眠りなおす。

 同時にラブコメ系A級チート『二度寝』が発動したのを、まどろんだ意識の片隅で感じた。


「むにゃ……なぜに『二度寝』がラブコメ系なんだ……また適当な仕事しやがって……すー……」


 二度寝という人類史上究極至高の快楽の海にたゆたいながら、そんなことを思ったのも束の間。

 抗いがたい二度寝の沼に、俺の意識はずぶずぶと沈んでいった。


「すー、ほんと……なんで二度寝ってこんなに気持ちいいんだろうな……くー」

 ふと、

「まなしー、いっしょに、ねる」

 どこかでそんなハヅキの声が聞こえたような気がした。


「くー……んー? ハヅキ……? いいぞー、すー……」

「うにゅ」


「……って、なんか今ハヅキの声がしたような……まぁいっか……夢だろ……すー」

「……」

「…………」


 そうして二度寝してから30分くらい経過して。

「んーー!」

 俺はA級チート『おはよう朝ごはん』によって、今日も素晴らしい朝の目覚めを迎えたのだった。


「さてと、起きるか――」

 気持ちいい目覚めの勢いそのままに、おりゃっと身体を起こしかけたところで、


「ん? なんか左腕が重いぞ……それに布団の中に湯たんぽみたいなあったかいのがあるな……? なんだ――ぶふぅっ!?」

 思わず噴き出してしまった。


「は!? え!?」

 だが困惑するのも仕方がないことではないだろうか。

 なぜなら俺の視線の先、掛け布団をめくった中にはハヅキがいて。


「……え?」

 それだけならまだ良かったのだが、なぜかハヅキはすっぽんぽんの全裸で。

 しかも俺の左手を腕枕にしながら、俺に抱き着くようにして、それはもう幸せそうな顔をして眠っているのだ。


「ど、どどど、どゆこと!?」


 ついでに言うと俺も上半身裸だった。

 加えてラブコメ系S級チート『ラッキースケベ』が発動した痕跡がある。


「……つまりこれはあれか? 俺とハヅキが、おしべとめしべ的な……え? マジで?」

 冷や汗が一筋、頬を伝って流れ落ちた。


「確かに、確かにハヅキのことを女の子として意識しつつある……あるけれども!」

 さすがにこれはまずくないだろうか……?

 主に年齢的な意味で。

 ほんとに年齢的な意味で。


 すると、なんということだろうか!


「うにゅ、まなしー、おはよ」

 俺が動いたことによって、ハヅキが目を覚ましてしまったのだ。


「お、おう、おはよう……?」

 思わず疑問形になってしまう。


「えっと、その、なんだ、どうしてハヅキが俺の布団に……」

「う、おぼえてない……?」

 全くもって記憶にない……がしかし、


「いや、覚えてるよ、覚えているとも! 覚えているんだけれど、一応ちょっとハヅキにも確認しておこうかなって……」


 うん、自分でも思うよ、一番最悪な答え方してるって。

 でもハヅキがすっごく悲しそうな顔してるんだもん!


 これで、

「ごめん、まったく覚えてない」


 って言うの無理じゃん!

 何かしらの優しい嘘が必要じゃん!


 でももし、凸と凹が愛し合う的な行為があったとしたら、責任は取らないといけないし、そのためにも事実を確かめる必要が、ある……!

 よし、まずはジャブで様子見だ……。


「あれれ? なんで、その……ハヅキは服を着ていないんだ? 服を着ないとお腹が冷えちゃうぞ?」

「からだ、ほてった、から」

「そ、そうか……」

 強烈なクロスカウンターが返ってきましたよ?


「まなしー、きもちよかった(とっても満足そうな笑顔)」

「そ、そう……」


 はいアウトー!

 完全にアウトー!

 リプレイ検証でもアウトー!


 おっけー分かった、俺も男だ。

 責任は取ろう!

 まずはだ、生まれてくるかもしれないその子のためにも、早急さっきゅうに仕事を見つけないとな……!


「ハヅキ、3人で一緒に幸せになろうな!」

 ハヅキの肩を抱き寄せて俺は固く誓った――のだが、


「ハヅキが、おこしにきたら、まなしー、しあわせ?」

「そりゃハヅキに朝起こしてもらえたら幸せだよ……って、ん……? 起こしにきた?」

「うにゅ、おこしにきた、けど、いっしょに、ねたくなった」


「えっと、いつ起こしにきたの?」

「さっき。まなしーも、ねて、いいって、いった」

「言ったっけ?」

「うにゅ」

「そ、そうか」


「あつかった、ので、ぬいだ」

 確かに昨日の夜は少し暑くて寝苦しかった気がする。


「そうか……でも暑くても寝る時に全裸はやめような、俺の心臓に悪いから」

「うにゅ、わかった」

「よーし偉いぞ」

 頭をなでなでしてやると、甘えたようにハヅキが抱き着いてくる。


「こらハヅキ、まずは服を着てからだな――」

 まぁでも勘違いで良かったよ……焦るじゃないか。

 やれやれ、一応事なきを得たな。


 ――そう思ってた時期が俺にもありました。


「ハヅキが起こしにいったと思うんですけど、セーヤさん起きてます――か」

 いつまでたっても俺が起きてこないので起こしに来たのだろう、扉を開けたウヅキと、目が、あった。


 さて、改めて今の状況を整理しよう。


 まず今の俺はベッドの上にいて、上半身裸で、全裸のハヅキと対面座位で抱き合っている。

 状況整理、終了。


「朝からお楽しみですね! さすがです、セーヤさん! もうちょっとしたら朝ごはんができるので、それまでにはスッキリ終わらせてくださいね!」

 顔を真っ赤にしたウヅキは、扉を閉めると逃げるようにして出て行ったのだった。


 その後、どうにか誤解を解こうと試みたものの、現行犯である被告人・麻奈志漏まなしろ誠也の証言には、微塵の証拠能力もないことは確定的に明らかであり、誤解は事実として認定されてしまったのだった……

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