第37話 異世界温泉~二日目、ハヅキと~

「あぁ……、ちょーきもちいい……」


 豪勢な食事を堪能した後、当たり前のようにせっせと片づけをはじめたウヅキに、

「手伝いなんていいんですよ。片付けはわたしにどんと任せて、セーヤさんは温泉で疲れを癒してきてくださいね」


 そう言われた俺はお言葉に甘えて一番風呂、ならぬ一番温泉をいただいていた。

 回復系A級チート『実家は檜風呂ひのきぶろ』の発動を感じながら、まったりと今日一日を思い返す。


「2日目も色んなことがあったなぁ……まずナイアがエロかったよな……スタイル抜群であの露出度高いビキニアーマーは反則だろ……青少年保護育成条例にもとづいて逮捕しちゃうよ……」


 しかもお礼と言ってどんと晩餐を手配してくれる器のでかさまでもった姉御肌。

 好みかどうかで言われたら、もちろんど真ん中のストライクである。

 加えて半端なく強いときたもんだ。


「負けることはないだろうけど、本気を出したナイアとはちょっとやりあいたくはないかな……」

 できればこの先、対立することだけは避けたいところだ。


「でもそれよりもなによりも、一番はやっぱ戦闘系S級チート『剣聖』だよな……あれはマジ半端なかった……」

 文句なし、まさに圧巻の戦闘力だった。


 日本刀クサナギを抜いた瞬間に感じた、まるで自分が自分でなくなるような感覚。

 『剣聖』という強大な力に引き込まれ、俺がチートを使ってるはずなのに、チートに俺が使われているような怖さすらも感じるほどだった。

 もちろん暴走するとかそんな危険は感じなかったけどさ。


「アリッサも『剣聖』はお勧めだった言ってたし、安全面とかその辺はちゃんとしてるっぽいよな……」

 にしてもだ。


「明らかにあの時の俺って別人っていうか、話し方まで変わってたよな……あれ誰だよ、本当に俺かよ……しかもウヅキに対する下品な態度にかなりイラッとしてたのに、同時に妙に冷静な自分もいてさ……」


 使い手の精神状態なんて気にやしない、問答無用の戦闘系最強チート――それが『剣聖』なんだ。


「そういや『地獄の底で未来永劫、後悔させてやる――』はすっげー懐かしかったな……確か中学時代に妄想した決めゼリフだもんな……まさか俺の人生で本当に使う日が来るとは思わなかった……それにしても、改めて思い返すとかなり恥ずかしいぞ……」


 やれやれ、封印していた黒歴史をみずから紐解いてしまったぜ……。


「そして《クサナギノツルギ》か……『剣聖』の武器理解効果ですら把握しきれないとか、どんだけいわくつきの刀なんだよ……でもこの名前ってなんだったかなぁ……名前は超有名だし、絶対に聞いたら思い出すはずなんだけど、あんまりRPGはやらないから詳しくは覚えてないんだよな」


 ってなことをつらつらと考えながら、肩まですっぽりお湯にかって極上の気分で気持ちよく弛緩していたときだった。


「まなしー」

 いきなり頭上から声が降ってきたのは。


 気が付くと、いつの間にか温泉にハヅキがやってきていたのだ。


「うぉ――っ」

 完全にリラックスしちゃってて、まったく気づかなかったぞ。


 しかもすぐ近くに――っていうかためらうことなく左隣に入ってきたんですけど!?

 肩をぴったりよせて、俺の左の掌を小さな両手でちょこんと掴んじゃったりして!?


「ハヅキ……ど、どうしたんだ?」

 ちなみにラブコメ系S級チート『ラッキースケベ』は昨日に続いて発動していない。


「……なに、ほんとに温泉では発動しない仕様なの? っていうか発動してないのに2日続けて女の子と混浴しちゃってるの? それって地味にすごくない? 異世界さんマジ半端ないね?」

 いやまぁそれは置いといてだな。


「まなしー、いっしょに、はいる」

 そう言ってぴったりくっついたまま、ハヅキは俺から離れようとしなかった。


「急にどうしたんだ?」

「うにゅ、かくにん、しにきた」

「確認ってなにを?」

「…………」


 しかし答えは返ってこない。

 代わりにじっと何かを見つめている様子のハヅキ。


「さっきからいったい何を見てるんだ?」

 視線の先を追ってみると、だいたい俺の腰のあたりを見ているな……って、全く隠してないじゃん俺!

 全裸じゃん!


 いや温泉に入ってるんだから、裸なのはまったくもって当たり前なんだけれども!


 しかもハヅキときたら、どうやら俺の股間を凝視しているっぽいのだ。

 情操教育のためにも早く隠さないと――いや今更隠そうとするのは逆に不自然か?


「くっ、いったいなんなんだよ、この謎すぎるシチュエーションは……っ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る