第31話 閃光のナイア

 美しいけれど防御力が全くなさそうな、何よりえっちすぎる騎士甲冑。

 ビキニアーマーを気持ちマシにした、とでも言えば想像しやすいだろうか。


「なんだよこれ、えろすぎなんだけど……ごくり」


 そんな目のやり場に困る鎧に身を包んだ女騎士たち総勢5名はしかし、馬上で周囲に警戒の視線を飛ばし続けていた。

 いつ敵が出てもすぐに戦えるといった物々しい雰囲気、統率のとれた動きなどから察するに、おそらくこれが駐留騎士団なのだろう。


 そしてこの鎧の防御力云々に突っ込むのは野暮といもうものだ。

 さすが異世界、素敵な装備だなぁと思います! これが正しい感想というものである。


 その中からリーダーと思しき一人が、前へと出てきた。

 胸が大きいのに腰はきゅっとくびれていて、むき出しの健康的な太ももは躍動感に満ち溢れながらも、女性らしい柔らかさを失うことはなく備えていて、スタイル抜群の超がつく美人さん。

 しかもえっちな女騎士装備である。控えめに言ってエロエロだった。


「トラヴィスの隊商から100体を超える妖魔の群れが暴れてるって一報を受けて、特に機動力の高いメンツで急いで駆けつけたっていうのに、こりゃいったいどういうこったい?」

 女騎士はちょうど今、埋葬されている最中の妖魔たちへとちらりと視線を送った。


 ま、特に隠すことでもない。

 女騎士だって色々隠してないしな、うん。

 公平には公平で返すのが人の道というものだ。

 肌色万歳!


「手短に言うと、妖魔の群れは俺が全滅させたよ。生き残りはいない」

「全滅だって? あんたが? 一人でかい?」

「ああ」


「これだけの魔物をたった一人で? あのでかいA級妖魔ヤツザキトロールまでかい?」

「そうだけど」

「へぇ――」


 それを聞いた馬上の女騎士の目つきが、すっと鋭くなった。

 チートがなければビビること間違いなしの、半端ない眼力めぢからだ。


 えっちな鎧を身にまとってはいるが、この女騎士、相当できるぞ――!

 もちろん『剣聖』がある限り、今の俺がそうそう負けることはないだろうけど。


「そいつはすげぇや。どれ――!」

「セーヤさん!」

 ――刹那、ウヅキの悲鳴が上がった。


 女騎士が馬上から予備動作ゼロの槍の一撃を、俺へ向かって繰り出したからだ。

 惚れ惚れするような鮮烈な一突きが、俺の頭を打ち抜く――!


 ――その寸前で、槍は俺の眼前1センチでピタリと静止していた。

 前髪がふわっと軽く風圧になびく。


「……なんで避けなかったか、聞いてもいいかい?」

 槍を突きだしたままの体勢で、女騎士が問いかけてきた。


「当てる気がないものをいちいち避ける必要はないだろ?」

「しっかり殺気をこめたはずだけど?」


「正確には限りなく殺気にみせかけた、裂帛れっぱくの気合ってとこだな」

 殺気がないのは最初から分かっていた。

 ならわざわざ避けるまでもない。


「アタイの手が滑るかも、とは考えなかったのかい?」

「そんなヘマをやらかすようなヘボな腕には、到底見えないからな」


「弘法も筆の誤り、ってこともある。誰にでも失敗はつきものだろう?」

「わざわざ1センチも間を開けてくれたじゃないか。あんたの腕ならそれこそ1ミリ以下にだってピタリと止められたはずだ。安全マージンは十分ってほどに取られてた」


 本当に文句なしの腕前だ――そして相手が凄腕だからこそ、こういう芸当もできたのだった。

 相手の腕を信じられたからこその、ま、ちょっとしたお遊びみたいなもんだ。


「まさか今の一瞬、たった一槍を見ただけでそこまで分かったって言うのかい?」

「時間なんて関係ないさ。俺ほどになれば一目見れば実力のほどはわかる。あんたみたいな超が付くほどの凄腕なら、特にな」


 もちろん正確には俺じゃなくて、戦闘系S級チート『剣聖』の力なわけだけど。

 まぁ俺が持ってるものは俺の力と言っても問題はないだろう。


「ふぅん――」

 俺の返答を聞いて、女騎士の眼光がさらに鋭さを増す。


 視界の端に映るウヅキは、頑張って対峙しようとはしているものの、蛇ににらまれたカエルみたいに、もう完全に腰が引けちゃってへっぴり腰でビビりまくってるし、ハヅキはぎゅっと俺の腰にしがみついたまま、顔を押し付けて離そうとしない。


 そっとハヅキの頭に手を置いてあげると、安心したのか、しがみつく力が少しだけ弱まった。

 そんなひりひりとした緊張感は、しかし、


「アタイの負けだね!」


 破顔一笑。

 槍を引いた女騎士がニカっと浮かべた極上のスマイルによって、いとも簡単に霧散したのだった。

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