第29話 最強S級チート『剣聖』 3
「きっ、貴様ぁ! 俺様の手下どもをよくも――!」
一瞬にして配下の下級妖魔を全て斬り殺されて、青筋を立てて怒り狂うヤツザキトロール。
「なんだ、妖魔でも仲間がやられたら悲しむもんなんだな」
「この野郎……!」
「だったらそれを他人にやってんじゃねーよ、自分がされて悲しいことは他人にするなって、ママから習わなかったのか?」
「許さんぞクソガキ……!」
「やれやれ――ったく聞いちゃいねぇな」
言語は同じはずなのに会話が通じないってのは、ほんとどうしようもないよな。
「ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す!! うぉおおおオオオラァッ!!」
怒り心頭で雄たけびを上げながら、ヤツザキトロールが猛烈な突進をかましてきた。
その手に持つのは金棒――昔話でよく鬼が持っているアレだ。
鋭い踏み込みからの体重の乗った振り下ろしを、ギリギリのところでかわす。
チッと前髪にかすった音がした。
「おらおらおらっ!」
続けざまに打突、叩きつけ、横なぎと――金棒による乱打が見舞われ、しかし俺はそれらをすんでのところで回避していく。
「おら! さっきまでの威勢はどうしたぁッ!」
さらに次々と繰り出される攻撃の数々。
金棒というにはやや細めのフォルムは、一撃の威力こそ落ちるものの取り回しに優れていて、大型武器特有の打ち終わりの隙がほとんどない。
「自分の怪力が一番活かせるであろうちょうどいいサイズの武器を選んで使っているってわけだ。脳筋かと思ったら意外とクレバーなところもあるんだな。それとも単に野生の本能のなせる技か?」
「その減らず口がいつまで叩けるか楽しみだぜ! おらっ! 死ねや!」
鋭く、そして強烈な連撃。
それを基本は回避しながら、かわし切れなかったものだけ威力を
「どうしたどうした! 大口叩いた割りには、さっきからちょこまかと逃げ回っているだけか!」
「いかにもかませ犬っぽいセリフだぞボス猿……いやもうお前一人だからボスじゃなくて、ただの猿か。悪かった、訂正しよう、ボッチ猿」
「こんの――っ!」
俺の挑発に見事に煽られ、烈火のごとき打撃の暴風雨さらに苛烈さを増していく。
だが攻守にバランスのいいその戦闘力は、実際かなりのものだった。
動きは野性的でありながらもなかなかどうして理にかなっていて、強さただそれだけを求めたある種の信念すら感じさせる。
「さすがA級妖魔ってだけはあるな」
ヤツザキトロールの強烈な打突を、半身になって脇をすり抜けるようにかわすと、俺はいったん距離をとった。
「まぁでも、こんなもんか」
「はっ! 逃げてばかりの癖に、なに偉そうに言ってやがる! 地獄の底で後悔させてやるって言ってたな? そっくりそのまま返してやるぜ! 本当の地獄はここからだ!」
――なんだ気付いていないのか。
「いいや、もう終わってるさ」
「あぁ?」
俺はくるりと反転してヤツザキトロールに背を向けると、ウヅキたちへ向かって歩き出した。
「てめぇ、逃がすと思ってんのか――!」
「逃げる? なんだ、本当にまだ気づいていないんだな。やれやれ――」
「さっきからなにを言ってやがる――」
チャキっと俺が
「ごっ――――がフっ」
その音を合図にしたかのように、ヤツザキトロールの身体が上下真っ二つになって、腹部のあたりからずり落ちていく。
振り返るまでもない、俺は肩越しにそれをチラリと見やった。
「やれやれ、すでに死んでいることにも気づかないとはな」
この戦い、俺は戦闘系S級チート『剣聖』ではなく、同じく戦闘系A級チートである『剣豪』で戦っていた。
S級チート『剣聖』の使用により、同クラス内の性能差の存在を実感した俺は、試しに同じA級同士が戦った場合にどうなるのか、少し検証しておこうと思ったからだ。
結論として、同じA級でも明確な差があるということは確認できた。
「そりゃそうだよな、差がないと同じランク同士で戦ったら基本終わらないわけだし」
おそらくあのままA級チート『剣豪』で戦っていても押し切れただろう。
ヤツザキトロールの攻撃は、既に完全に見切っていた。
あの攻撃では決して俺には当たらない。
あとはどこで仕留めるための一撃を入れるか、ということだけだった。
「でもあれ以上、あの不快な声を聞いていたくなかったんだよな……」
確認ができた以上、それ以上長々と戦いにつきあう必要はない。
ってなわけで最後。
距離を離したあの瞬間に、A級チート『剣豪』からS級チート『剣聖』に戻していた俺は、すり抜けざまに神速の一太刀を一閃、見舞っていたのだった。
「いかに回復力が優れていても、胴体を真っ二つにされれば関係ないだろ?」
チート・オブ・チート『剣聖』と大業物の
「相手が斬られたことにも気づかないほどとは――やれやれ、切れ味が凄すぎるのもちょっと考え物だな」
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