第6話 タフな彼女と彼女が心配な彼氏

 握手会の2日目、僕らはホテルの扉から出たところで僕のファンの4人組に取り囲まれた。

 僕は愛想よく対応してから、マネージャーが彼女たちに対応した。

 その間に僕たちは階段を降りてタクシーに乗ろうと彼女たちをすり抜けた瞬間、ファンのうちの一人がユーリを押した。

 階段の上から8段ほどを、彼女は不意を突かれて転げ落ちた。

 すぐに救急車が来たが、ユーリは気が付いて、

「頭は打ってないから大丈夫」だと言った。

 思わぬ事故になってしまって青くなっている女性にまで気を使って、警察には自分が足を滑らせたと説明した。

 一応救急車で病院に行って手当と検査をしたが、打ち身と擦り傷と足首の捻挫ですんでマネージャーがほっとしていた。

 

 握手会にはぎりぎりで到着し、何食わぬ顔で握手とサインをしている彼女に僕は圧倒された。

 なにも出来なかった僕は、せめて握手会でユーリが困らないように気を遣うくらいしか出来なかった。

 握手会が終わってすぐにユーリのお兄さんが来て怪我の具合を見ていた。

 午後は仕事をキャンセルして様子を見ようとマネージャーとお兄さんがユーリに言ったが、ユーリが仕事はキャンセルしない、その代わり今夜ソウルに帰る予定を取りやめて、明日は一日自宅でゆっくりしたいと言った。

 ちょっと顔色が悪いので僕も心配だったが、彼女は聞きそうにないので彼女の言う通りにすることになった。

 午後の仕事が終わったらお兄さんが迎えに来ることになって、僕達は予定があるので一旦帰国することにした。


 本屋の近くでユーリはお昼ご飯を少しだけ食べ、次の取材場所に向かっているタクシーで僕にもたれて寝ている。

 顔色は相変わらず悪いし、ご飯もあまり食べてないし心配だ。

 僕は明日仕事だけど、彼女を置いて今夜帰るのは嫌だった。

 どうしようかと思っていたら、携帯にメッセージが入った。

『電話しろ』ミンジュ先輩からだった。

『ちょっと今は電話できません。ユーリが調子悪くて横で寝ているので』

『ユーリは今日どうするんだ?』

『予定通り仕事をこなして、今夜と明日は自宅で療養するそうです。僕とマネージャーは今夜一旦ソウルに戻ります』

『わかった』

 わかった?と僕は不思議に思いながらも、スマホでネットを見るともう騒動がSNSに上がっていた。

 ファンがユーリを階段から突き落として怪我させたとあった。

 マネージャーが事務所へ連絡した内容と、SNSを見てミンジュさんは心配してかけてきたのだろう。

 

 夕方最後の仕事を彼女がこなしていると、いつの間にかミンジュ先輩がマネージャーと話ししていた。

 目立たない格好で帽子とマスクをしていた。

 話が終わって僕を見て廊下に連れ出した。

「すいません!」と僕は謝った。

『なにやってたんだよ、一緒に居て』と怒られるのを覚悟して目をつぶった。

 なんせ僕のファンがしたことだ。

 でもミンジュ先輩は、僕の背中に手を当て、

「大変だったな、俺が来たからもういいぞ。おまえは安心して帰れ」と優しく言った。

 僕はずっと責任を感じていたので先輩の前で涙が止まらなくなった。

「バーカ、泣くな。アイドルやってるとこんなことばっかりだ。強くなれ」と言って、乱暴に頭を撫でてくれた。

 取材の様子を見に戻るともうすぐ終わりそうだった。

「ユーリ本当に調子悪そうだな、無理してる。今夜熱出そうだ」とぼそりと言った。


 取材が終わると、先輩は事務所のスタッフのような顔でユーリに近づいて支えて立たせた。

 ユーリはすごく驚いていたが、すぐに呑み込んで先輩をスタッフのように接した。

 お兄さんに連絡し、タクシーで先輩が自宅まで送って行くと言って、あっけにとられる僕たちを置き去りにした。

 やっぱりすごく怒っているようだ。


 僕達がソウルに着いたら、『足の捻挫が酷いから2日は安静にしたほうがいいって医者に言われた。俺もこっちにいるから』とマネージャーにメッセージが入った。 ミンジュさんのマネージャーはきっと青くなっていることだろう。可哀想だ。

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