第5話 先輩の嫉妬に僕は同情する

 握手会のコーナーには花束がいくつかすでに用意されていた。

 スタンドに乗った大きなオブジェがいっぱいのおもちゃ箱みたいな花束を見て「これリウさんからだ」とユーリが喜んだ。

 マネージャーに写真を撮ってもらって、それを彼に送っているようだった。

「リウさんとミンジュさん達に送ったの。彼らは仲良しだから」と嬉しそうにいう彼女は普通の18歳の女子みたいだ。

 ユーリが花束の送り主である、アキさんとかアサミさんとか監督、ダンスの師匠との関係を説明してくれた。

「デビュー前からこんなに花束がくるなんて」とマネージャーも本屋の責任者も驚いていた。

 ユーリは、とてもありがたいです、と素直に言った。


 握手会は盛況で本屋の前に行列が出来ていた。

 ユーリは一人ずつ心を込めて握手してサインをしていた。

 女子も意外に多くてびっくりした。

 僕は列の中に変な人がいないかマネージャーと交代で見ていたが、限定100名の最後にひときわ背の高い柄シャツの男性がいて、怪しいのでドキドキした。

 でも彼女と彼の目が合うとユーリがとても嬉しそうにしたので、知り合いのようだ。彼の前を通り過ぎる人が見て歓声をあげたり、遠くから彼の写真をこっそり撮っている。有名人のようだ。

 彼は順番が来てユーリの前にくると、くしゃっと笑ってしゃがみ握手してサインをもらっていた。

素敵な笑顔だった。

 ユーリは花束のお礼をしてから、彼が並んでいたことに笑って、楽しそうに話している。

 その二人の写真を皆が撮っていた。

 本屋さんの責任者がオブジェの花束の前に二人を誘導したら、人だかりが出来て、写真撮影会のようになった。

 ユーリは彼を兄のように信頼して慕っているように見える。

彼はユーリを好きなように見える。

というか、二人が一緒にいるところはミンジュさんより恋人っぽかった。

 確かにミンジュさんが番犬を寄こしたくなるわけだ。

 

 握手会の後、本屋の近くの個室カフェでリウさんと僕とユーリでお茶をした。

 柄シャツの男がリウさんと知って僕はびっくりした。

 学校の同級生でも人気の日本人アーティストだ。

 ユーリが僕を声の素敵な新人アイドルだと彼に紹介してくれて嬉しかった。

 リウさんは少し韓国語が話せた。

 きっとミンジュさんたちと友達だからだろう。

「なに、ユーリのお付き?どうせミンジュさんに何か言われてるんでしょ」と鋭いとこを彼は突いた。

「そんなわけないよね~」とユーリは言ったが、リウさんはお見通しのようで僕を見てニヤリと笑った。

 いたずらっ子のような彼はちょっとミンジュ先輩に似ていた。

 

 ユーリのアメリカ生活の話や、リウさんの音楽活動の話をしていたらマネージャーからもう時間だと連絡が入った。

 カフェから出ると、僕たちはたくさんの人に写真を撮られた。

 リウさんは週末に新曲を出すのでゲリラライブをするそうだ。

 良かったら来てね、と場所と日時を教えてくれた。


 次の現場に移動するタクシーの中、ユーリの携帯にミンジュさんから着信が入った。

「リウさんといるのかよ」と不機嫌そうに言う声が聞こえる。

 ユーリは慣れているようで、

「もう別れて今は次の現場に向かってます」と言っている。

 やっぱりミンジュさんはリウさんに嫉妬しているのだ。

 確かにリウさんは男の僕から見てもとても魅力的だった。

 焦る気持ちもわかる。

 しばらく話した後、

「早く帰って来いよ」と言って切れたようで、ユーリは笑っている。

「ミンジュさんから?」

「うん、早く帰って来いだって。仕事なのにね」とクスクス笑う。

 なるほど、ミンジュさんが言った意味が少しわかった。

 ユーリは自覚がないんだ。

 それに、あんなに強いくせに一旦懐に入るとガードがとことんなくなってしまうようだ。

 さっきも僕が本屋でキスしようと思ったら出来ただろう。

 僕はミンジュさんが少し気の毒になってきた。


 ユーリの写真集についての雑誌の取材を見学していると、僕を知っている雑誌の編集部の女性に声をかけられて一緒に写真を撮った。

 ユーリとは同じ事務所でほぼ同期なこと、日本語や日本の勉強の為にマネージャーに連れられて日本に来ていると説明する。

 雑誌のツイッターに記事を載せる許可をマネージャーから彼女がとった。

 

 その記事が思わぬ波紋を起こした。

 僕たちが泊るホテルに僕のファンが来て、一緒に居るユーリを嫉妬から衝動的に階段から突き落としたのだ。

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