第34話 賊狩り

 何度廊下を曲がって、何度海賊をふっ飛ばしたのか分からなくなった頃。ようやく建物の外に出られたのを潮風が教えてくれた。

 月明かりが海面を照らして光の道を作っていて、桟橋には昼間にはなかった小舟が停泊している。少し遠くの方を見ると大きめの船が数隻浮かんでいて、あれがこの男の人たちの船だろうと予想がついた。

 そして辺りは既に制圧済なのか数十人の軽装の人たちが忙しなく動いている。


「チャールズ隊長! 食料確保しておきました! ……って何ですかその娘!? 人攫いは駄目っすよ!?」

「人攫いじゃねぇよ!? ここから出る方法がないっつってるから連れ出すだけだ!」

「お世話になります」

「あ、これはどうもご丁寧に……」


 彼に下ろしてもらってぺこりと頭を下げると部下らしき人は威勢を削がれたように返す。というかこの人チャールズって名前だったんだ。覚えとこう。なんの隊長なのかは知らないからスルー。


「取り敢えずアスターまで行けばいいだろう」


 はあ、とため息をつきながら半端投げやりに言うと彼は引き揚げるぞ! と声を張った。それに合わせてわらわらと人が船に乗り込む。


「あの女は結局見つからなかったな……」


 その様子を見ながら歯噛みするように呟いた彼の視線は険しい。あの女の人とは敵同士なのだろうか。というかこの人たちは何の目的でここを襲撃したのだろう。


「そう言えば、どうしてここを襲ったの?」


 率直に聞くと彼は大した事じゃない、と目を細めた。


「ちょっとここの連中とは仲が悪くてな。ただの嫌がらせ、本格抗争の前の威嚇だ。……それよりお前は俺のそばを離れるなよ。変なところに行かれたら困るからな」

「行かないし!」


 ハッとバカにしたように笑われたのでげしりとすねを蹴ってやった。ぐふっと声を上げながら崩れ落ちて震えているのを見やってフン、と鼻を鳴らす。


「テメェ……」


 恨めしげな視線を寄越されたが知らん顔。すると最初に声をかけてきた部下の人がふとこちらを見て首を傾げた。


「隊長、どうしたんです? そんなところで寝て」

「いやコイツが……」

「あっれぇ、隊長さん寝不足ぅ?」

「オイコラ」


 すねをさすりながら立ち上がったチャールズさんは私の言葉にツッコミを入れると諦めたように私を小舟へと促した。そして聞いてくる。


「一旦アジトに戻ってからアスターに行くが、それでいいな?」

「わーい、ありがとう!」


 アスターまで行けたらあとはどうにでもなる。

 しかしここで私はある一つの考えに至った。

 この人たちアスターに入れるのだろうか?

 たしかに助けてはくれたけど服装とは船は明らか海賊っぽい。失礼だが港に入る前に砲撃とかで打払われそうだ。

 そんな事を考えているとそれが分かったのか安心しろ、と言われた。


「俺らは海賊じゃねえ。王室公認の賊狩りだ。だからアスターには普通に入れる」


 お前は黙ってついてこい、と彼が笑った気配がした。

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