第6話 二人の会合
兄さん。
二人の間でそんな言葉がいやに響いた気がした。
そう呼ばれた男性な小さくため息をつく。
「そのような呼称はお止めください。お戯れが過ぎます」
振り返ることなく返された声にランは上機嫌に笑った。
「こう呼んだら一瞬、君の鉄仮面が緩むからね」
行き交うのは世界で通用する共通語では無く、テッラ帝国の、それも古く、テッラ王国時代の言葉だ。今となっては理解出来る者なんてほとんどいない言葉。
しかしそれでも不都合もなく二人は会話をする。
面白いんだよ、と茶目っ気をたっぷりと含んだ言葉に男性はもう一度ため息をついた。それには呆れの感情が乗せられている。
これ以上文句を言ってもランが更に面白がるだけだともう分かっている彼は最初のランの質問に答えた。
「順調と言えば順調です。恐らくもう長くはお保ちにならないでしょう。例の件につきましては思っていたよりも苦戦していますが想定内です」
すらすらと紡がれた内容。周りを警戒しているのかかなりの単語が省略されているがランはその全てを理解した。
そしてその上であれ、とティーカップを手に首を傾げた。
「彼ら、それなりに見込みあったと思うんだけど。彼らが弱かったのかな、それともあっちが強かったのかな?」
口調では不思議そうだがその顔は微笑みを絶やさない。あくまで全てが想定の範囲内で進行している中で、ニュアンスの違いが気になった、せいぜいそんなところだ。
男性はそんなランの思考はよく知っていた。だから彼の求めるものを素早く提示する。
「後者です。これが今回の報告の目玉のつもりだったのですがね」
もう少し勿体つけたかった、と暗に言った男性にランはつまらなそうに言う。
「どうせそれ以外は全部レールの上なんでしょ、わかるよそれくらい」
「では他の報告を省略致します」
「うん、それがいいよ」
彼が満足そうに頷いたのを感じた男性はコップの水で唇を湿らせてから口を開いた。彼の手元には何も無い。情報は全て、脳内に叩き込まれてあった。
「紅の彼が副団長に就任しました。それ以降、勢いを盛り返しています。あそこは良くも悪くも一心不乱に突き進むきらいがありますから。そんな集団において正義感が服を着て歩いていると言っても過言ではない彼が良い柱になったと思われます。それに彼自身の能力も申し分ない。剣術は勿論、それに強い魔力がプラスされるのですからこちらとしてはあっちにやってしまったのが悔やまれる程です」
分析を加えて話す男性にランは仕方ないじゃんと口を尖らせた。さすがにこれはお手上げ、と言うように。
「ガードが固すぎるんだよ。そんなに大事な駒ならもっと他に手はあっただろうに。……ホンット、頭はいいのに頭悪い」
急に不機嫌になった声に男性は肩を竦める。少し黙って、軽く言った。
「じゃあ、壊しますか」
表情を変えず平坦に言われた言葉にランは苦笑する。
「たしかにそれも手の一つだ。けど、彼は放っておく方がいいよ。きっといつか自分からこっちに来て、僕らの目的の為に尽力してくれるさ。あの子は根は賢いから」
自分の考えに絶対的な自信を持っている口調。それにずっと無表情だった男性は小さく微笑んだ。
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