紀元7000年の冒険譚 【1 蒼海の王者】

第59話 竜の声

「……ッ……リ！　……カリッ！　アカリ！！」

「っん、あ？」

　ペチペチと頬を叩かれる気配と自分を呼ぶ声に意識が浮上する。うっすら開いた視界に、スズメさんが映った。

「あっ！　起きたか！　大丈夫か、どこか痛むところは無いか！？」

「とく……には……。死んだかと思った……」

「アタシも死んだかと思ったよこの野郎！！」

「いでっ」

　ズビシッと頭にチョップを入れられる。わりと痛い。周りを見回すと倒れてから時間はあまり経っていないようで、すぐそばの抉れた地面からはまだ煙が立ち上っていた。

　竜はやっぱりまだ暴れているが、こちらを狙ってはいない。よかった。

「スズメさんが助けてくれたのか？　ありがとう」

「……まあな。竜が突然咆哮を上げてお前を狙いだすもんだから焦ったんだからな？」

「俺もびっくりした。だってあの竜急に喋るんだもん」

「……は？」

「……え？」

「アカリ、あの竜、一言も喋ってないぜ？」

「……うそだろ」

　彼女の言葉に目を瞬かせる。

　いやいやいや、俺ははっきりと聞いたからな。絶対喋ってたからな‼　……うん喋ってた！

　訳が分からなくて混乱していると兄ちゃん！　と聞こえてメイが駆け寄って来た。目が少し潤んでいる。

「兄ちゃん、大丈夫！？　私の方からだと兄ちゃんふっ飛ばされたように見えて……」

「大丈夫大丈夫。大丈夫だから泣くなって。……メイ、あの竜、喋ってたよな？」

「喋る……？　兄ちゃん、なに言ってるの……？　さっき頭打って変になっちゃった……？」

「え……？　いや変にはなってないぞ！？　兄ちゃん真剣に言ってるからな！？」

　俺はまだボケてないはずだ！　まだまだ現役だピッチピチだ！　そのはずだ！！

「喋ってましたよォ」

　メイとそう言い合っていると、横からふと聞こえた声に顔を向ける。するとワーナーさんが少しふらつきながらも立っていた。あーキンキンする、と言って片方の手の平で耳を抑えている。

　やった！　仲間いた！　一瞬メイの言うように頭打って変になったかと思ったけどよかった俺はまともだ！！

「ワーナーさん！　あなたも聞こえていたんですね！！」

「まぁ俺は"聞こえる側"のモンですしねェ……。アンタには色々と聞きたいことがありますがそれは置いておいて、とりあえず喋ってたのは事実、ということは言っておきましょう」

「“聞こえる側”……？」

　首を傾げたがそんなことよりも今は竜ですよ竜、と言って彼はベネディクトの元へと走っていってしまった。彼の方を見るとベネディクトは耳を抑えて座り込んでいた。

　となると、彼も聞こえていたのだろうか？

　そう考える間もなく背中をバシンと叩かれた。

「大丈夫ならとにかく動いとかねぇとまた狙われるぞ！　走った走った！！」

「あ、ああ！」

　メイを浄化班のところに帰して、俺はスズメさんの後を追って走った。