第57話 同類
なんとか医務班の元まで辿り着いて、敷かれた敷物の上に腰を下ろす。ここは竜玉の間から少し横穴に入ったところにあり、それなりに安全だ。
「腹減った……」
『キュウ……』
ふぅ、と息をついてそうこぼす。ここまで竜が出たら刀を振るって、また竜が出たら刀を振るって……としていたせいで霊力の消費が激しい。相手が瘴気を纏っていたせいで余計使ってしまったのもある。子竜は俺を心配するように見上げた。
うん、大丈夫だからな。
元々舞刀術は燃費の悪い霊術の為、一回使ったら必ず何かを食べるなりなんなりして補給するようにと師匠には言われていたが今回はその食料が無かった。ちくしょう食料もっと買い込んどきゃよかった。
腹を撫でながらもう一度ため息をつくと突然目の前にずいと袋が押し付けられる。
「!?」
「まったく、霊術使いなら常に食料は余りある程に持っておくべきだろう。特に古代霊術は燃費が悪いんだからな」
「ハルイチさん」
見るとハルイチさんが俺に袋を押し付けている。受け取って中身を見るとたくさんの携帯食料が詰まっていた。彼の言葉を聞くに、食えという意味だろう。これは有り難い。
「ありがとう」
礼を言ってから食べ始める。一口食べると空きすぎて一周回って忘れかけていた空腹を超えた飢えが一気に襲ってきて、次から次へと口に押し込んだ。けど食べても食べても食べた気がしない。
なんでだろう、普段からたしかに俺は大食いだけど普段はこんな気分にはならないのに。
足りない。たりない。タリナイ。
コツン
「!」
頭を小突かれてはっとすると両手で抱える程の大きさの袋に入っていた携帯食料は一つ残らず無くなっていた。
「がっつき過ぎだ」
『キュウ……?』
呆れたようにハルイチさんに言われる。子竜も首を傾げて瞳をくりくりとさせる。かわいい。
気づくと狂ってしまいそうな程俺の身体を支配していた飢えも、消えていた。
「霊力はもう十分か」
にっと笑って言う彼に黙って頷くとわしわしと頭を撫でられる。ついでに口の周りについてしまっていたらしい食べかすもゴシゴシと拭かれる。
そしてその手が背中に回ったかと思うと、バシリとそこを叩かれた。
「っ、」
「なら行け。存分にその刀を振るってこい」
「……ああ。お前は、危ないからここにいろな」
『キュッ!』
その言葉に立ち上がって竜玉の間へと走った。
「……レナード」
「……なんですか」
ハルイチは走っていったアカリの背中を眺めると、近くで休んでいたワーナーに声をかけた。ベネディクトは一度は医務班に引きずられて救護所まで来たが少しするとすぐにレヴィと竜の間まで走っていったので彼のそばにはいない。
突然声をかけられて訝しげに首を傾げたワーナーにハルイチは言う。
「あの兄妹はなかなかに面白いな」
それにワーナーはあぁ……と言葉を濁した後、返した。
「……ワケアリなんでしょうよ。あんな組み合わせが普通兄妹になれるはずありませんから。……何笑ってんですか」
自分は大真面目に話しているのに何なんだと言わんばかりに彼は眉を顰める。ハルイチはクツクツと面白くて面白くてたまらないというように笑うと、そうかお前にはそう見えるか、と言葉を紡いだ。
「はァ?」
「一つ、事実を教えてやろう」
眉間の皺を深くするワーナーにハルイチはピッと人差し指を立てて言った。
「アカリはお前の同類ではないぞ」
「……っ!?」
一瞬ワーナーは何が、と考えたがすぐに反応を示し、これでもかとばかりに目を見開く。その唇は言葉も出ないようで、わなわなと震えている。
「え……だって……え……?」
「そういうことだ。まあ片足は突っ込んでるようだがな。……クク、やはりあの兄妹は将来が楽しみだ」
混乱して目を白黒とさせるワーナーの隣で、ハルイチは楽しくてしょうがないと言うように笑い続けた。
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