第44話 ある日 竜の巣の中 子竜に 出会った

 巣の中は暗くて湿っぽい。入口の近くはあの老竜がいるおかげか瘴気の影響は薄いが、やっぱり陰気な所だ。正直あまり好きではない。


 俺たちは列を組んで進んでいる。先頭にメイも含む浄化が得意な隊員、冒険者が行き、中央あたりに調査器具などの色んな機材を運ぶ隊員、その周りにそれを守る隊員や冒険者がいる。その後ろに救護班や後方を守る隊員や冒険者な続く。俺はその後方部隊だ。側にはベネディクトとそのお付のワーナーさんとレヴィさんがいる。


 なんだか最近気付いたらベネディクトがいつも近くにいるのは気のせいだろうか。ついさっき距離の遠さを再確認したところだというのに。


(気のせいじゃないと思うなー)

(わぁいやっぱりー?)


 救護班の中でも後ろの方を歩いていたランと小声で交わす。

 船にいた時も船室によく来たし、いい奴なのは確かだけどどうしてここまで俺にくっついてくるのか分からなくて少し身構えてしまう。

 あと顔がいいから純粋に緊張する。美青年の顔は俺にとっては兵器です、見てられません。目が潰れる。あと自信無くす。はなからほとんどないに等しい自信だけど。


(まあ悪意を感じていないならそのまま仲良くしとけば?)


 彼の言葉に取り敢えず頷いた。



「おお……」


 少し歩いて、開けた場所に出る。そこには子供であろう竜が十数体と、年老いたあの老竜が身を寄せ合っていた。

 その様子は中々に壮観で、ほぅ、と息が出る。……けどよく考えたら無事なのがこれだけでこの先もっととんでもない大人の竜がわんさかいるってことか? それはちょっとおっかないな……。


 老竜は入ってきた大勢の人間を確認するとのそりと立ち上がり、こちらを見た。


『我はこの巨体故、共に行くことはできまい。代わりに案内の竜を出そう』


 言うと子供の竜が一体立ち上がって歩いてきた。子供とはいえニメートル程ある。その竜は大佐の元まで歩いていくとキュウンと一言泣いてすり寄った。彼女は微笑んでその頭を撫でる。いいなあ俺も撫でたい。


『我が群れの存続は、主らにかかっている。……頼んだぞ』


 老竜が願うように言った。



 老竜がいた所を抜けると、途端に瘴気が濃くなる。一応浄化班が浄化はいているが気分が悪い。


「コレ竜玉の側とか大丈夫なのか?」

「大丈夫、ではないだろうな」


 ベネディクトと話すを彼は難しい顔で続ける。


「竜玉周囲がもっと酷いことになっているとしたらそこに着いた時、出来る限り万全の状態でありたい。今の群れの長もそこにいるとなればなおさらだ」


 彼の言うことはもっともで、俺はそれに頷いて笑って返した。


「道中竜に出くわさないのが一番いいんだけどな。あの案内の竜もあえて大人の竜が入りにくいところを選んでくれてるっぽいし、何かあってもそう大事にはならないだろ」

「だよなー」

『キュイ!』

「「!?」」


 突然頭に感じた重みと聞こえた鳴き声に驚いてたたらを踏む。すると目の前に何かが落ちてきて、咄嗟にそれを受け止めた。あっぶねえ!?


「おわっと!?」

『キュウン』

「……竜の、子供……?」


 落ちてきたのは五十センチ程の竜の子供で、大きさ的に生まれてほとんど経っていないだろう。


「付いて来たんですかねェ」


 ワーナーさんが覗き込んで言った。その声は不思議な物を見たような声だ。子竜はキュイキュイと鳴きながら俺に擦り寄ってくる。


「ちよ、おも……っ。のあっぷ!?」


 顔までベロベロと舐められた。何故だがは知らないがかなり懐かれている。いやかわいいし嬉しいけどほんとなんで。


「おまっ……、危ないからあっち戻っとけ!」

『キュキュイ!』


 流石にこんな小さい子供を連れて行くのは良心が痛む。しかし降ろそとしてもいやいやと言うように鳴く。


「なんでだよぉ……」

「もういっそ連れて行ったら? いざという時は岩陰にでも隠せばいいでしよ」

「むしろここで置いてった方が面倒くさそうですねェ……」

「というかアカリさん何したんです? 尋常じゃない懐き様ですけど」

「知りませんよ……」


 話の内容を理解しているのかその竜は嬉しそうに鳴いた。くそう、可愛い。顔が緩みそうになるのを唇を噛んで耐える。多分今の俺はかなり変な顔になっているだろう。駄目だ駄目だ!

 そして出来る限り恐い顔をして釘を刺した。


「絶対の絶対に危ない時は隠れてろよ、いいな?」

『キュイッ!』


 わかってないだろお前ー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る