第38話 森を抜け……られない
足を怪我しているらしいアカバ君はかろうじて歩くことは出来そうだったが、流石に森を抜けるのは難しそうだった。申し訳なさそうに顔を伏せる彼にランが声を掛ける。
「そうだ、ルリの背中に乗りなよ。足場が不安定でもこの上ならあまり揺れないだろうし」
『グル』
ルリが最終形態になって乗りな、と言うように彼に背を向ける。キメ顔もしていて、なんだかめっちゃカッコいい。アニキと今度から呼ばせてもらおうか。
「あ、ありがとうございます……。ドラゴンなんて、見るのも乗るのも初めてだ」
「ふふ、それはよかった」
よ、という掛け声でランがアカバ君を持ち上げ、体勢を低くしたルリの背に乗せてやった。
ランお前……。意外と力、あるんだな……。非戦闘員って嘘だろ……?
「…………なんか失礼なこと考えてない?」
「いんや、何も」
首を振ってアカバ君を見やると、彼は最初はカチコチに固まっていたが、ルリが歩きだすと落ちないようにしがみつく。
「わあ、ひんやりしてる」
「水のドラゴンだからね」
そろそろとルリを撫でるその手にルリは気を良くしたようで、浄化をして歩きながら水の固まりをふよふよと身体の周りに漂わせていた。
しばらく歩いて、ランがおかしいなぁ、と声を上げる。
「来た時より歩くスピードも上げてるから、そろそろ森を抜けてもいい頃なんだけど……」
「は? それなら迷ったってことか?」
「ううん、道はあってるはずだよ。僕、森に入ってからずっと迷わないように目印付けながら歩いてるもん」
ほら、あそこ。と指差された先には枯れ枝が一本、地面に突き刺さっている。自然にできるようなものではないので、それが目印なのだろう。
それにしても目印の付け方が雑だ。ぶすりも地面に突き刺さった枯れ枝はなんだか哀愁まで漂わせている。こいつ、存外ガサツなのか……?
「目印の数から考えて、そろそろ出口が近くなって明るくなってくるはずなんだけどなぁ……」
歩きながらキョロキョロと辺りを見回してふとランはこれこれ、とまた別の目印に駆け寄った。
「この目印が起点で、三本刺しとしたんだ」
「…………出口、見えないけど」
「…………おっかしいなぁ……?」
固まった笑顔のまま彼が首を傾げる。
しばしの沈黙。
くあ、とルリがあくびをしたところでよし、とスズメさんが動きだした。
「化かされてんだろ、きっと。森は島の南側にあったから、取り敢えず北にいこうぜ」
片手に持った方位磁針を示して北を指差す彼女。
俺たちも彼女に続いて、歩いてきたのとは別の方向に足を向けた。
化かされている、というのは、魔物に化かされているという事だ。魔物の中には、人や動物を惑わせる者もいる。彼らの術にかかったら最後、何もせずにただ闇雲に森を歩くだけでは抜けることが出来ない。そうなったら、敢えて道を逸れることによってそれから抜け出すしかない。
ちなみにこれは旅の指南書にも書かれている基本的な旅の知識なので決してスズメさんの気の迷いとかではない。
アカバ君が不安げな顔をしたが、笑って頭を撫でてやると少し安心したようだった。やっぱり子供は笑顔が一番いい。
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