第36話 とにかく進もう
「いつつ……まだ沁みて痛ぇ……」
スズメさんが包帯の巻かれた肩を擦りながら言う。目は若干涙目だ。かなり腕の立つ冒険者もやはり痛いものは痛いらしい。
「仕方ないじゃん、瘴気が入ってたんだから。それとも何? そのままにして瘴気で死にたかった?」
「メッソウモゴザイマセン」
目が笑っていない笑顔のランに彼女は肩を縮こまらせる。そして無理矢理話題を変えるようにぐるぐるとその肩を回して彼に言った。
「で、でも動きには異常ないし! ありがとな! うん!」
引き攣った笑顔でそう言って「よーしとっととアカバ君見つけるぞー」とわざとらしく声をあげてずんずん歩いて行こうとする。
それに慌てて俺は待ったをかけた。
「あ? んだよ」
不機嫌そうな言葉選びだが彼女にそんな意思は梅雨程もないのは短い付き合いだが分かる。サバサバとしているだけなんだ、彼女は。
……最初は怒らせたかと思ってビビった事もあったけど。あまり接したことのないタイプの人でどう接したらいいのか分からなかったけど。
「ここから先は瘴気が濃すぎる。あまり一人で進まない方がいいと思う。
こんな魔物もいるし……」
雪華の刃先でつん、と狼の死体をつつく。
それは身体全体から瘴気を燻らせ、はっきり言ってあまり近くには寄りたくない。というか既に腐敗が始まって気持ち悪い。
ていうかもう一部白骨化してんですけど。……メイには死んでも見せられない。
ランも少し顔色が悪いし、スズメさんは今は大丈夫でもこの後どうなるかわからない。
「……確かに、そうだな。悪かった、軽率だった」
彼女は素直に戻ってきて、それならどうする、と言った。
「先に宣告する。アタシ浄化魔術手洗いレベルぐらいしか使えない」
「右に等しく」
宣告した彼女に続いてすっと手を挙げて言う。
それにランははぁ、とため息をつくと「ルリ」と隣のルリに声をかけた。
「浄化、頼める?」
『グル』
「ありがとう」
ルリは第二形態になるとキュウウン、と鳴く。すると
サァァ…………
「「おお……」」
見る見る間に辺りの瘴気が消え去った。思わず声を上げる。
何今のめっちゃ清々しかった。てか神々しい。
ランが誇ったような顔で言った。
「ドラゴンは魔力がとても綺麗だからね。ある程度の浄化ならできるよ」
『キュイ!』
「ルリさんカッコいい!」
「イケメン!」
ドヤ顔でフンと鼻を鳴らしたルリに二人で称賛を送る。
だが、「けど」と彼は肩を竦めた。
「ドラゴンにとっても瘴気は毒だから限界も勿論あ。早く進もう」
「おう」
「ああ」
頷いて、ルリを先頭にして歩き出した。
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