決着 XXXVIII.

 セシルが目を覚ましたのは事件から3日後のことだった。

 熱も退き、毒も完全に抜けたのでもう大丈夫だろうと先生から言われた。


 何が起きたのかはジークに教えてもらった。


 私に毒を盛ったグロリアは表向きは病死したことにして修道院へ行かせたそうだ。

 その為の墓も立てたそうだ。

 クリス様との婚約話も立ち消えた。

 お父様はクリス様に謝罪し、お詫びの品もたくさん用意したのだが「元々こうなる可能性も視野に入れていたのでお気になさらず。セシル嬢、早く良くなると良いですね」と言われたそうだ。

 クリス様には友として何か用意をしておこうと思う。

 グロリアの姉として最後にできる仕事だろう。


 ミハエル様はグロリアに刺されて亡くなったそうだ。

 ミハエル様と関係を持ち、この事件に加担したメイドはこれは伯爵家にとっても公にできない事件なので処刑するわけには行かず、流刑地によく使われる島に秘密裏に流したそうだ。

 そこは処刑を免れた悪人の流刑地にされている島なのでそこに女が1人で取り残されたらどうなるかぐらいは想像は容易い。

 ある意味死んだほうがましなのかもしれないが。


 「お嬢様、まだ病み上がりなのですからもう暫くお休みください」

 「相も変わらず心配性ね」

 「毒を盛られた上に三3日も意識不明の重体だったんですから当然です」

 「ごめん」

 「いいえ。私も油断をしておりましたし、これは誰にも予想のできなかったことです」


 まぁ、誰もグロリアが毒殺を企むなんて思いもしなかっただろう。

 あの子にそんな頭はないと誰もが思っていたのだから。


 「お嬢様」

 「ん?」


 ギシリとベッドが軋む音がした。

 「っ!?」

 どうしたのだろうと思ったら私はジークに抱きしめられていた。

 細い線なのに筋肉がしっかりとついていて思ったよりも硬い彼の胸板に自分の体が密着していると考えるだけで顔に一気に熱が溜まる。

 折角良くなったのに再熱しそうだ。


 「ジ、ジーク、ど、どうしたの?」

 「申し訳ありません。ですが、もう暫くこのままでいさせてください」

 「ジーク?」

 ジークの体は震えていた。

 「あなたが生きていると実感したいのです。

 この3日間、生きた心地がしませんでした」

 「・・・・・ジーク、ごめん」


 私はジークの大きくて広い背中に手を回した。

 記憶の最後に抱きしめたジークはとても小さかった。

 自分も小さかったのだが。

 いつの間にかこんなに大きくなっていた。

 私もジークも大人になったのだ。


 ややあって、ジークは私から離れた。

 そのことを寂しいと思ったが私はいつも通りの笑顔を浮かべて見せた。


 「申し訳ありません、執事としてあるまじき行為を致しました」


 ジークも何でもないことのように振舞う。


 「ううん。それだけ心配をかけたってことよね。

 暴漢の件といいこれで2回目ね。

 もう少し自分でも注意をしておくべきだったと思うわ」

 「私もお嬢様を守れるように細心の注意を払いたいと思います」


 そう言って笑い合っているところにルルが来て、イサック殿下がお見舞いに来られたと言って来た。


 「取り敢えず、手初めに羽虫の駆除でも致しますか」

 笑いながら怖いことを言うジーク

 彼はどうもイサック殿下のことをお気に召さないようだ。

 「ほどほどにね」

 「はい」

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