第1211話、わたくし、虚○玄氏の『ジェット魂物語』のアニメ化を言祝ぎますの♡

『──佐久間隊、佐久間隊、応答しろ!』


『──駄目です、佐久間中隊、完全に沈黙!』


『──一条隊、芙容隊も、応答無し!』


『──出撃大隊のうち、いまだ健在なのは、我が隊のみの模様!』




 次々に送信されてくる、絶望的な報告の数々。


 大日本帝国陸軍南方派遣軍第2軍集団航空隊、第44中隊隊長である私こと速見元祐は、もはや為す術も無く、部下たちに返す言葉すら完全に失ってしまっていた。




「……くそう、あの『化物』どもめが」




 そう、『彼女』たちは、ある日突然やって来た。


 今やすでに太平洋戦線も、我が軍の敗色が濃厚となり、物量作戦で怒濤のように押し寄せてくるアメリカ軍に、ただ無様に屍体の山を築き上げるばかりとなっていた。


 ──しかし敵軍は、『やり過ぎて』しまったのだ。


 平野にも、ジャングルにも、大海原にも、文字通り死屍累々の有り様のまま放置された無数の屍体と、破壊し尽くされていく大自然の姿に、ついにこの『惑星ほしの意志』の怒りが爆発したのか、我々の前に人間の軍隊なぞものともしない、『真の脅威』が現れたのだ。




 美しい女性の上半身に、猛禽類の大きな翼と羽毛だらけの下半身を有する、西洋においては『サイレン』とか『セイレーン』などと呼ばれている、異形の化物。




 何と『彼女』たちは、この惑星ほしの『自浄作用』の具現であるかのように、敵味方を問わず、無数に横たわっている屍体を喰らい始めたのだ。


 しかも、それだけでは留まらなかった。


 何せ、我々日米両軍が戦闘行為を続ける限り、屍体はどんどんと増え続け、大自然は破壊されるばかりなのだ。


 まさしく『自浄作用』を完遂せんとするかのように、化物どもは当然の帰結として、我々両軍に襲いかかってきたのである。


 ……古代の伝説やおとぎ話に出てくるような怪物程度なら、軍用機や戦車を多数擁する現代の軍隊の敵でも無いように思えるが、さに非ず。


 何と『彼女』たちは、アメリカの最新鋭戦闘機であるPー51『マスタング』の最高速度である時速700キロメートルを優に凌駕する高速性と、現在の航空機では絶対不可能な『変則的空中機動』を駆使して、今大戦の全戦線において最強を誇る米陸軍航空隊を一方的に翻弄した後、情け容赦なく刈り尽くしていったのだ。


 元々残存兵力も乏しく、できれば米軍と化物とが『共倒れ』することを期待して、ジャングルの中にじっと身を潜めていた我が皇軍であったが、米軍無き後次のターゲットとなるのは必定なので、先手必勝とばかりに、本日航空戦力のほぼすべてを出撃させて、『彼女』たちとの決戦に及んだのであった。


 しかし、質量共に米軍に圧倒的に劣る我が軍が、米軍を易々と下した化物どもに敵うわけが無く、次々に僚機が屠られていき、ついに残るは私自身が指揮する一個中隊全12機のみとなってしまったのであった。


 ……もはや、万事休すか。


 そのように、帝国軍人としてあるまじき『弱音』を、密かに心の中で吐き出してしまった、


 まさに、その刹那であった。




『──速見隊長! 敵影を目視で確認! きゃつらが急速に接近中!』




 き、来たか⁉




「──全機散開ののち、全速力で当空域を離脱! 一機でも多く、生き残ることだけを考えろ!」




『──中隊長⁉』


『──敵前逃亡は、問答無用で銃殺ですよ!』


「構うものか! やつらは『敵』では無いし、これは『戦争』でも無い! 一方的な『虐殺』であり、やつらにとっては、ただの『食餌』だ!」


『……た、確かに』


「わかったら全速力で逃げろ! 犬死には許さん! 一機一兵でも多く温存して、きたるべき人間同士の最終決戦に備えるんだ!」


 ──そうだ。


 今回の突発的事態においては、むしろ米軍のほうが被害が多いのだ。


 うまく『化物』どもを追っ払うことができれば、日本軍の反撃の糸口に繋がるかも知れぬ!


 そのように、いまだくすぶり続けていた『大和魂』を、胸の奥底で再び燃やしながら、一時的な『転進』を決行したものの、


『──うわあああああ!!!』


『──駄目だ、振り切れない!』


『──誰か、助けてくれええ!』


『──こんなことで、死にたくない!』


『──化物のエサになるなんて、ごめんだあああああ!!!』


 次々に送信されてくる、部下たちの断末魔。


 気がつけば我が中隊は、残り数機のみと成り果てていた。


「──くっ⁉」


 ついに私の愛機にも、一匹の『セイレーン』が迫ってきた。


「だ、駄目だ、どんなに失速ギリギリまで無茶な空中機動しようとも、まったく振り切れない⁉」


 もはやこれまでと思われた、まさにその時。




『──ぎえええええええええええええええええ⁉』




 耳をつんざくような砲撃音と共に、聞くに堪えない醜い叫び声を上げながら地上へと墜落していく、我が機を追尾していた化物。


「……あ、あれは⁉」




 それはまさしく、異形の軍用機であった。




 何とプロペラの類いは一切見受けられないと言うのに、世界最速のPー51どころか、『セイレーン』すらも圧倒的に凌駕する高速性を誇り、


 その機影もこれまで見たことも無いほど、機能的かつ優美な流線型を成し、いかにもスピードが出そうな『後退翼』を擁し、


 機首の機関砲は、米軍標準装備の13ミリ機銃どころか、我が海軍航空隊が誇る零戦の20ミリ機関砲よりも、遙かに大口径のものが装備されており、


 とどめには何とその尾翼には、今や誰も知らぬ者はいない、かの『ハーケンクロイツ』が黒々と描かれていたのだ。




「──まさか噂に聞くドイツ空軍のジェット機、メッサーシュミット262か⁉ どうしてルフトヴァッフェの最終兵器が、こんな太平洋戦線にいきなり現れるんだ⁉」




 そのように、あまりの驚愕の事態に完全に我を失っていた私を尻目に、その思わぬ闖入者全五機は、次々に化物どもを屠っていったのである。


「……そんな馬鹿な! 一体どれだけスピードが出ているんだ? もはや時速800キロってレベルじゃ無いだろ⁉」




 そして、化物の最後の一匹が撃ち落とされると同時に我が機の無線に、あまりにも戦場には似つかわしくない幼い少女のものと思われる声が、着信してきたのであった。




『──アロー、こちらはドイツ空軍特別戦闘部隊「ワルキューレ」隊長、悪役令嬢アルテミス=ツクヨミ=セレルーナですわ。これからこの地における「セイレーン」退治に邁進していく予定ですので、どうぞよろしくお願いするわね♡』







(※次回に続きます)

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